マーケティングリサーチ産業のイノベーションと利益の源泉、課題(前編)

こんにちは、ライターの〝ミスターMR“です。

今回は、前編・後編に分けて、日本マーケティングリサーチ協会(以下、JMRA)が示す産業ビジョンを題材に、「マーケティングリサーチ産業のイノベーションと利益の源泉、課題」についてお話したいと思います。

JMRAが示す新しい産業ビジョンとは

一般社団法人日本マーケティングリサーチ協会(以下、JMRA)の委員会活動のひとつに、『インターネット調査品質委員会』があります。この委員会の役割は、

「この10年の間にインターネット調査を取り巻く状況が大きく変わっている。スマートフォンの普及と若年層パネルの枯渇によって、インターネット調査の存続が危うくなってきている。そこで今の時代にあわせたインターネットリサーチの品質基準を見直すとともに、持続可能なものにしていくための啓蒙活動を行っていく」(以上、JMRA資料より抜粋)

と規定されています。

また、JMRA20175月に定めた『マーケティングリサーチ産業ビジョン』では、“MR(マーケティングリサーチ)業界のイノベーションおよび市場調査から代表性不要のユーザー調査へと題され、以下のように記述されています(引用文1、引用文2参照)。

JMRAの「パラダイムシフト宣言」

私は、このJMRAのビジョンは、マーケティングリサーチそのものが、「標本調査から母集団を推定する」ものではなくなり、なおかつ、あれだけの隆盛を誇った(今でも全手法の40%以上を占めている)インターネットリサーチの存続も実は危うくなっているという見解を示したものと解釈しています。

さらに、JMRAのホームページに書かれているように、マーケティングリサーチ業界自体が『最もセクシーな業界』になることを標榜し、これまでのようにインターネットリサーチに大きく依存せず、「標本調査から母集団を推定する」代わりに「溢れるデータからストーリーを読み取り、ビジネスにインパクトを与える」という「パラダイムシフト」を宣言したと理解しています。

しかしながら、今のところ業界内外であまり大きな話題になっておらず、マーケティングリサーチ会社のビジネスにインパクトを与えていないのが少し気がかりです(あくまでも個人的な印象です)。

インターネットリサーチの始まり

諸説あると思いますが、インターネットを媒介にした消費者データの収集が行われ始めたのは、Windows95の発売によってインターネットが爆発的に普及した1995年の翌年頃からではなかったかと記憶しています。

当時は、Eメールを活用してアンケート調査票を配布・回収し、同時に新製品の告知や案内などのプロモーションを行うサービスが人気を集め、多くの企業が利用していたのではないかと思われます。

私も97年当時、あるリサーチ会社に所属していた頃、会社から認められた僅かな予算を元手に、回答データを収集するシステム開発とモニター登録者の組織化といった、インターネットリサーチの仕組み作りに関わった経験があります。そのときは、斯様な仕組みが、後に登場するインターネットリサーチ会社によって莫大な利益を生むことになろうとは全く想像していませんでした。

私が当時所属していたリサーチ会社は、産業調査を得意としており、実はあまり消費者をリサーチの対象としていませんでした。しかし、私が担当していた化粧品産業やアパレル産業は、消費者ニーズの把握とは切っても切れないカテゴリーであったため、そのことがインターネットリサーチの仕組みをつくるきっかけとなったのです。

上司にかけあって予算を捻出してもらい、インターネットリサーチの仕組みを開発し、消費者との接点を手に入れることができたのですが、他に際立った事例もなく、開発業務は手探りのため、当時のメンバーと大変な思いをしたのを覚えています。

その後、多くのインターネットリサーチ会社が誕生してきたのは皆さんもご存知のとおりですが、私はと言えば、前述のようなモチベーションで始めたインターネットリサーチですから、当面、本業である産業調査を補完し、企業情報だけではなく、消費トレンドやニーズ、パーセプションなどの消費者データを提供し、競合他社と差別化できれば良いというくらいに考えていたと思います。インターネットリサーチが、いずれ訪問面接や郵送、電話等のリサーチ手法にとって代わり、全体の40%以上を占め、大きな利益をもたらすビジネスに成長するであろうなんてことは全く考えておりませんでした。

それらのインターネットリサーチ会社が、老舗マーケティングリサーチ会社をクライアントに、インターネットリサーチ業務の再委託マーケットを創出し、マーケティングリサーチ全体のマーケットサイズを拡大させ、業界の発展に大きく貢献したことは言うまでもありません。

イノベーションとは「ルールを変える」こと

前記JMRA『マーケティングリサーチ産業ビジョン』には、新興ネットベンチャー企業群による「価格破壊」→「破壊的イノベーション」が起きたということが書かれています。

新興ネットベンチャー企業群のイノベーションが意味するところは、即ち業界の基本ルールを変えてしまったことだと私は考えています。

それまで、老舗マーケティングリサーチ会社は、「調査設計をして」、「調査票を作成して」、実査によりデータを収集し、それを「集計して」、その集計結果を基に「レポートを作成する」一連のサービスを提供するといった業界ルールに則ってビジネスを行ってきましたが、新興ネットベンチャー企業群は、そのルールを根本から変えていきました。
メーカーなどの事業会社であっても、インターネットリサーチ・パネル(以下、パネル)の提供はするが、「調査設計はせず」、「調査票を作成せず」、「集計せず」、「レポートを作成しない」といった新しい業界ルールが誕生したのです。
これがまさに、価格破壊を可能にした『イノベーション』だったのだと思います。
つまり、回答データを収集するシステム開発とモニター登録者の組織化に成功したこと自体がイノベーションではなく、「調査設計はせず」、「調査票を作成せず」、「集計せず」、「レポートを作成しない」ことが『イノベーション』だったのです。

ホリエモンこと堀江貴文氏が、イノベーションについて言及する際、いつも「技術オリエンテッドにならないこと」を指摘していますが、まさに技術そのものではなく、技術によってどのようにルールを変えていくか、いわゆる「Game Changer」になれるかということが重要であるということを示唆しています。私も過去に、回答データを収集するシステム開発とモニター登録者を組織化しましたが、元来リサーチャーゆえに、業界の基本ルールを変えて、Game Changerになる発想がなかったことを、逆説的に自戒を込めて、敢えて言及したいと思います。

その後、新興ネットベンチャー企業群は、リサーチ産業におけるシェア拡大のために、「調査設計をして」、「調査票を作成して」、「集計して」、「レポートを作成する」サービスに逆参入(つまりルールを戻された!)することにより、現在では、老舗マーケティングリサーチ会社を脅かすだけでなく、抜き去る存在となりました。

老舗マーケティングリサーチ会社の多くは、かつてルールを変えられ苦戦を強いられただけではなく、再びルールを戻された時には既にインターネットリサーチ会社に対する競争力を失っていたという事実を付け加えて、前編を終えたいと思います。

(後編に続く)

 

この記事を書いた人

ミスターMR営業企画本部

突如現れた謎のライター“ミスターMR”。 当社所属のマーケティングリサーチャーであるということ以外、詳細は不明。

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