マーケティングリサーチ産業のイノベーションと利益の源泉、課題(後編)

こんにちは、ライターの〝ミスターMR“です。

今回は前回に引き続き、日本マーケティングリサーチ協会(以下、JMRA)が示す産業ビジョンを題材とした、「マーケティングリサーチ産業のイノベーションと利益の源泉、課題」の後編です。

「水平分業」から「垂直統合」へ

インターネットリサーチが普及し始めた当初、老舗マーケティングリサーチ会社は、新興ネットベンチャー企業群との『水平分業』が続いていくだろうと楽観視していました。
時間をかけて「調査設計」、「調査票」、「集計」、「レポート作成」の質を高めると同時に、「マーケティング・コンサルテーション」領域に事業を拡大し、新興ネットベンチャー企業群との差別化を図り、収益性を改善しようと目論んでいました。
しかし、資本力やスピード感に勝る新興ネットベンチャー企業群が、リサーチャーなどの人材強化や集計システム開発の推進による『垂直統合』の動きを見せたということです(図1参照)。

私は、インターネットリサーチ・パネル(以下、パネル)を提供するプレーヤー数が急激に増えたこともあり、サービスのコモディティ化(サービスの特徴等の差がなくなり、価格等のみで選択が行われること)が進み、資本提携やM&Aによる『水平統合』で、パネル提供会社が数社に集約されると予想していましたが、これも見事に外れました(図2参照)。

マーケティングリサーチ産業は「利益の源泉」をどこに求めるのか

前編で触れた、インターネットリサーチ会社による業界ルールの変更は、なぜ必要だったのでしょうか。

その理由は、インターネットリサーチ会社の利益の源泉が「パネルの提供」にあり、それに付随する「調査設計」、「調査票作成」、「集計業務」、「レポート作成」は、思いのほか利益を期待できなかったことが挙げられます(人材が不足し、ノウハウがなかったことも理由として考えられます)。

そもそも、老舗マーケティングリサーチ会社が提供する「調査設計」、「調査票作成」、「集計業務」、「レポート作成」の品質には、担当者によりバラつきがありましたし、その品質に対するクライアント企業の評価基準も主観的で曖昧でした。

一方で、老舗マーケティングリサーチ会社の差別性や付加価値は、「調査設計」、「調査票作成」、「集計業務」、「レポート作成」の品質にありましたが、利益の源泉は「実査そのもの」または「実査プロセスの管理」、つまり「実査によるデータ収集」にありました。

インターネットの普及によるビジネス環境の変化で、インターネットリサーチ会社が提供するパネルがクライアント企業に支持されると、老舗マーケティングリサーチ会社は「実査によるデータ収集」という利益の源泉を徐々に奪われ始め、「調査設計」、「調査票作成」、「集計業務」、「レポート作成」の低収益性に苦しむことになったのです。

同様に、インターネットリサーチ会社の利益の源泉はパネルであり、それは「実査そのもの」であり、「実査プロセスの管理」です。JMRAが唱える産業ビジョンにあるように、今後、マーケティングリサーチ産業の扱うデータが、「位置情報」、「ソーシャルデータ」、「経営事業データ」、「社会データ」、「マクロデータ」といった、実査を伴わない、世の中に『溢れるデータ』にシフトしていき、そのデータから『ストーリーを読み取り、ビジネスにインパクトを与える』ことを指向していくのであれば、老舗マーケティングリサーチ会社とインターネット調査会社が、奇しくも歴史的に利益の源泉としてきた「実査によるデータ収集」を放棄するという印象を拭うことができません(表1参照)。

マーケティングリサーチの役割の変化

マーケティングリサーチ産業は、クライアント企業に提供する付加価値部分の収益性改善に至らないまま、利益の源泉のあり方を大きく方向転換しようとしています。JMRAが唱える産業ビジョンのコンセプトに、『これまでのリサーチの役割』として、「顧客意識やニーズの把握」、「顧客理解の支援」、「マーケティング課題の抽出」、「アナリシス(分析・分解)」、「仮説検証」が挙げられており、これらはすべて、「調査設計」、「調査票作成」、「集計業務」、「レポート作成」で明らかにされるものです。

さらに、同産業ビジョンのコンセプトには、『これからのリサーチの役割』として、「潜在ニーズの発見」、「ビジネス創造のPDCA支援」、「ビジネス研究とビジネス開発支援」、「シンセシス(統合・合成)」、「仮説推論」が挙げられています(表2参照)。

これら、JMRAが掲げる新しい役割をマーケティングリサーチ・ビジネスの核とするのであれば、それらの示唆・提案プロセスやアウトプットを利益の源泉として収益性を高めることができるかが、マーケティングリサーチ産業の大きな課題となりそうです。

前編・後編のまとめ

①かつて、新興ネットベンチャー群(インターネットリサーチ会社)は、「インターネットリサーチ・パネルの提供」を『利益の源泉』とし、「調査設計はせず」、「調査票を作成せず」、「集計せず」、「レポートを作成しない」といった新しい業界ルールをもたらし、イノベーションを起こした。 

②その影響を受けて、老舗マーケティングリサーチ会社は、実査によるデータ収集という『利益の源泉』を奪われ、「調査設計」、「調査票作成」、「集計業務」、「レポート作成」の低収益性に苦しむことになった。 

③その後、新興ネットベンチャー群は、「調査設計」、「調査票作成」、「集計」、「レポート作成」の事業領域に参入し、『垂直統合』モデルによる売上・利益の拡大を実現、インターネットリサーチ会社から総合リサーチ会社へと成長し、老舗マーケティングリサーチ会社を脅かす存在となった。 

④一方で、スマートフォンの普及や若年層パネルの枯渇、品質面の問題等により、インターネットリサーチの存続が危うくなっている。 

2017年に入り、JMRAは、マーケティングリサーチ業界が『最もセクシーな業界』になることを標榜し、インターネットリサーチに頼らず、「標本調査から母集団を推定する」代わりに、「溢れるデータからストーリーを読み取り、ビジネスにインパクトを与える」という『パラダイムシフト』を宣言した。 

JMRAの掲げる「潜在ニーズの発見」、「ビジネス創造のPDCA支援」、「ビジネス研究とビジネス開発支援」、「シンセシス(統合・合成)」、「仮説推論」といった新しいリサーチの役割が『利益の源泉』となり、新しいビジネスモデルを構築することができるかが、マーケティングリサーチ産業の課題である。

 

この記事を書いた人

ミスターMR営業企画本部

突如現れた謎のライター“ミスターMR”。 当社所属のマーケティングリサーチャーであるということ以外、詳細は不明。

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