HACCP(ハサップ)について

2018.10.15

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政策のおはなし

ライターの中村です。
今回は注目され始めている食の安全性確保のための取り組みである「HACCP(ハサップ)」についてご紹介します。

HACCP(ハサップ)とは何でしょう?

HACCPは、Hazard Analysis and Critical Control Point の略で、直訳は危害要因分析(に基づく)重要管理点となります。
例えば食中毒の要因を明らかにして、食中毒を防止するために重要な管理点をシステム的に管理することです。
すでにEUや米国では義務化されており、日本でも大企業の食品製造業では導入が進んでいます。
しかし、小規模な食品製造業等にはHACCPの考えが周知されず導入が不十分な状況になっています。

そこで、2018年6月に食品衛生法等の一部を改正する法律が公布され、2年以内に政令が定められ、食品を製造する食品等事業者にHACCPに沿った衛生管理の実施が求められることになりました。
政令制定後、1年間の猶予期間が認められる見通しです。

今後、食品等事業者の大企業ではHACCPに基づく厳しい衛生管理が義務付けられますが、中小規模の企業ではHACCPの考えを少し緩めた基準での衛生管理が義務付けられます。
また、飲食店、給食施設、総菜、弁当製造の業種の企業も中小規模の企業と同様にHACCPの考えを取り入れた衛生管理の導入が義務付けられると考えられます。
いずれにせよ、ほとんどのレストランや弁当製造会社、コンビニエンスストア、スーパーマーケット等がHACCPの考えを取り入れた衛生管理の対象になります。

HACCPの7原則

HACCPには導入の手順を示す以下の7原則があります。

①ハザード(危険要因)分析(HA: Hazard Analysis)
例えば食中毒の要因分析と発生防止方法について明確にします。

②重要管理点の設定(CCP: Critical Control Point)
その中で特に厳重に管理しなければならない製造工程を重要管理点として設定します。

③管理基準(許容限界)の設定(CL: Critical Limit)
決定された重要管理点CCPについては、許容できる管理基準を設定します。例えば、食品の加熱温度、加熱時間などの指標を管理基準として客観的な根拠の基準を設定します。

④モニタリング方法の設定
重要管理点CCPとして管理している工程が管理基準のCLの範囲内で行われているか確認します。

⑤修正処置の設定
モニタリングによって、管理状態を逸脱した場合、速やかに是正措置を実施し、正常な状態にします。

⑥検証方法の設定
製造ラインの直接担当者でない人が客観的に確認します。内部監査チームが内部監査として行う場合と製造工程の品質管理を担当する品質検査員が日常行う確認があります。検証により、HACCPシステムが機能していないことが明らかになった場合は、HACCPの見直しが実施されます。

⑦記録の維持管理
HACCPのモニタリングや検証の結果は記録として保存し、必要に応じて改善に活用します。問題発生時に、どのような措置をとったのかについても記録をしておく必要があります。保管はルール化し決められた部署に一元的に保管し、決められた期間保管しなければなりません。

以上の原則に沿って、マニュアルや管理帳票の作成、記録の保存を全社的に行っていくことが必要になります。例えば、重要管理点の設定、管理基準の設定、モニタリング方法の設定では、以下のような事柄が行われます。

作業開始前に調理従事者の健康状態のチェックをして、チェックリストに記載する必要があります。
加熱調理食品であれば、加熱温度や加熱時間を決め、中心温度計等で温度を確認する必要があります。
冷蔵庫・冷凍庫の温度チェック、使用水の味や臭いチェック、調理器具の清掃、床や排水の清掃状況についても毎日チェックと管理帳票による管理が必要です。

現場の管理者でない部門による定期的な監査も実施し、問題が見つかった場合は、マニュアルや管理帳票の修正を含めた是正措置が実施されます。
このため、全社的に衛生管理を重視する組織風土が醸成できます。

3つの健康危害

HACCPの目的は、食品の安全性の確保で、以下の3つの健康危害に対応することです。

①生物学的危害
有害微生物の増殖等によって起きる食中毒の原因となる危害です。食中毒微生物(細菌)が最も大きな危害要因となります。

②化学的危害
農薬、洗剤、殺菌剤などの化学物質要因の危害です。

③物理的危害
金属、石、ガラス等の危険異物混入危害です。

HACCP導入が求められる背景

国内的には、共働きの増加、高齢化による外食・調理食品へのニーズ拡大により食中毒防止のためにHACCP導入が求められています。
食中毒患者が、およそ2万人で下げ止まり、食中毒防止のための改善の仕組みが必要になっています。

グローバル化の影響もあります。
オリンピックや旅行で多くの外国人が国内で食事をする機会が増加するため、衛生基準を底上げする必要があります。
さらに、海外での日本食ニーズに対応し、食品の輸出が増加していますが、EUや米国ではHACCPが普及していますので、海外で受け入れられる衛生基準が必要となっています。

国・自治体、民間団体の取り組み状況

(1)国・自治体の取り組み

①総合衛生管理制度過程承認制度(通称:マル総)
HACCPの概念を取り入れた厚生労働省の承認制度(食品衛生法13条1項)で、乳、乳製品、食肉製品、魚肉練製品、容器包装詰加圧熱殺菌食品(レトルト食品、缶詰等)、清涼飲料水の6品目に導入されています。これらの業種の大企業ではすでにHACCPへの対応は進んでいます。

②都道府県等の自治体のHACCPへの対応
都道府県、政令指定都市などでは、すでに食品関連事業者を対象にHACCPの考え方を参考にして構築した独自の衛生管理認証制度があります。例えば、東京都では独自の食品衛生自主管理認証制度があり、審査に合格すると東京都食品衛生マイスターの認証マークが与えられます。数は少ないですが、すでに喫茶店、小さなレストラン、保育所なども認証を取得しています。

(2)業界団体等の取り組み

政府は各業界に、HACCPの概念を取り入れた業界独自の衛生管理基準を定めた手引書を作成することを求めており、既に10程度の業界団体が手引書を作成し、業界配下の企業にHACCPへの対応を求めています。

大手小売業者(コンビニエンスストア、スーパーマーケット)も業界としてHACCPの概念を取り入れた衛生管理基準を定め、取引先となる食品製造業者に当該基準による管理を要求し、取引条件に用いています。
このため、大手小売業者への弁当納入業者等には影響が出ていると考えられます。

HACCP導入の効果

(1)対外的な効果

対外的には、以下の効果が考えられます。

①衛生管理面から安心できるという顧客からの評価が高まります。近年の夏は、酷暑と言われるくらい暑くなっており、食中毒のリスクの高まりから、安心して食べられる店や商品が必要となっています。

②欧米ではHACCPが一般化しているため、将来、国内での外国人の顧客獲得や海外進出の場合にHACCPの認証を受けていると、取引先との契約などがスムーズにできる可能性があります。

(2)社内的な効果

社内的には以下の効果が考えられます。

①食中毒等のリスクを未然に防ぐ仕組みができます。

②衛生管理状態がデータで保管されているので、問題が生じた場合に改善方法が迅速に実施可能になります。

③会社全体で取り組むことが多いので、社内での一体感が醸成されます。

④従業員が自社の先進的な取り組みに誇りを持てます。

⑤社内での整理整頓など、安全性のみではない、効率的な社内管理の仕組みが可能となります。

以上のように、HACCP導入による食の安全を守るスキーム構築で社内の管理体制が高まり、リスクマネジメントが向上する大きな契機になります。
HACCPは様々なメリットを持った新しい仕組みとして普及させていく必要があります。

 

図1 HACCPの導入効果

<参考文献・資料>
・日本食品衛生協会「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理のための手引書」2018年5月
・厚生労働省「食品製造におけるHACCP入門のための手引書」
・日本規格協会「新版やさしいHACCP入門」2017年11月
・東京都福祉保健局「東京都食品衛生自主管理認証制度」2018年版

 

この記事を書いた人

中村 理史営業企画本部

専門は産業経済です。営業企画本部で勤務しています。休日はお茶を楽しんでいます。

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