リサーチの結果を企業経営にどう活かすか? ~中期経営計画策定における外部環境分析の重要性~

はじめまして。ライターの長谷川です。
今期より大阪事務所マーケティングリサーチ課へ加入いたしました。
前職ではコンサルティングファームにて、マーケティング戦略構築・実行支援、経営戦略・経営計画策定支援などに従事していました。
リサーチ・コンサルティング・アカデミックの3領域における手法の融合、それによる最適な解決策の導出を目指し、日々精進しています。

今回は、「リサーチの結果を企業経営にどう活かすか?」について紹介させていただきます。

「リサーチを依頼したものの、その結果を企業経営にどう活かしたら良いか分からない」という声が上がることがありますが、リサーチの結果は企業経営の方向性を定める際に非常に有効なファクターです。具体的にどのような活用方法があるか考えていきます。

中期経営計画の策定と外部環境分析

その1つに中期経営計画の策定があります。
中期経営計画とは、5~10年後の経営ビジョンを達成するために、直近の3~5年の中期に取り組むべき戦略・施策をまとめたものです。
具体的には、企業理念の策定、ビジョンの策定、外部環境分析、内部環境分析、財務分析、戦略構築(マーケティング・マネジメント)、経営計画立案、数値計画などで構成されています。中でも、今回は外部環境分析に着目し、リサーチ結果の活用方法に言及します。

外部環境分析は、自社の現状を把握する上で不可欠ですが、中でも重視したい点は市場規模の把握と自社のシェアになります。
流れとしては、自社が属する業界の市場規模や、その市場において自社がどの程度の影響力を持っているかをリサーチし、分析することで、業界内における自社の位置づけを明確にすることができます。
自社のマーケットシェアは下記のように求められます。

マーケットシェア = 自社の売上高 ÷ 対象市場の総需要額(市場規模)

【例題】 例えば、市場規模が7兆円のA業界におけるX社の売上高が8,000億円である場合、マーケットシェアは次のように算出することができます。

8,000億円 ÷ 7兆円 = 0.1142857… ≒ 11.4%

∴ A業界におけるX社のマーケットシェアは11.4%となります。

続いて、マーケットシェアの活用方法について考察していきます。

マーケットシェアの活かし方

マーケットシェアの見方に関しては、「ランチェスター戦略方程式」と呼ばれる「クープマンモデル」を解析して導出された「マーケットシェアの理論」というものがあります。
経営コンサルタント・田岡信夫氏と社会統計学者・斧田大公望氏によって導出されたものであることから、「田岡斧田シェア理論」と呼ばれることもあります。
この理論では、マーケットシェアの目標数値(クープマン目標値)を以下のように定義しています。

(出所:福永 雅文(2018)『ランチェスター戦略 「弱者逆転」の法則』・戦国マーケティング(株)HPをもとに筆者作成)

すなわち、マーケットシェアによって、業界内における自社の立ち位置とその上の段階である目標値を把握することができます。
先ほどの例では、マーケットシェアが11.4%のため、影響目標値(10.9%)を超えていることが分かります。

マーケットシェアを踏まえた上での経営戦略

マーケットシェアを把握することで、最適な経営戦略を考えることができます。
仮に、自社のマーケットシェアが、上限目標値である73.9%を超えていた場合、それ以上に当該事業を伸ばそうとしない方が良いことが分かります。
なぜならば、1社独占のマーケットシェア100%の状態では、競争が生じないことから需要が活性化せず、市場全体の総需要額が縮小することが懸念されるためです。
「100%を目指す方が良いのではないか?」と考えがちですが、この辺りがシェア理論の面白い点ですね。

一方、シェア理論で重視されるのが、安定目標値の41.7%です。
安定的トップシェアの水準であり、独占ではありませんが、当該市場においては少数の売り手によって支配されている状態であると考えられます。
すなわち、安定目標値を超えていれば、自社は寡占者・寡占企業であり、独走状態に入っているかどうかの目安となります。
この場合は、当該事業で上限目標値の73.9%を目指した事業拡大を行うか、あるいは安定目標値の41.7%を維持した上で、他にシェア獲得を見込める事業領域があれば、そこに新規参入することなども望ましいでしょう。

また、下限目標値である26.1%は業界1位の場合であっても、2位企業と僅差である場合が多く、激しい価格競争などが繰り広げられる不安定な状態です。
この場合は、安定目標値である41.7%を目指し、自社のリソースを集中して投下する必要があります。
上位目標値である19.3%は、業界2位もしくは3位企業であることが多く、先述と同様に市場は不安定であると考えられ、他社と差別化を図り、よりニッチな点に注力することが不可欠です。

経済学でいうところの損益分岐点、すなわち黒字と赤字の境目になるのが、影響目標値の10.9%です。
この値を超えると、黒字となり、市場に影響を与える存在となります。
6.8%の存在目標値の場合は、市場に影響を与えることはできませんが、存在は認められるといった具合です。
なお、拠点目標値である2.8%は後発組として、市場参入できたかどうかの判断に用いられる水準になります。

業種・地域・企業規模を問わず有用なシェア理論

いかがでしたでしょうか?
リサーチの結果、把握した市場規模をもとに、自社のマーケットシェアを算出することで、具体的な経営戦略の方向性を導き出す方法をお伝えしました。
中期経営計画策定の際、マーケットシェア理論に基づく自社の立ち位置やクープマン目標値を活用して外部環境分析を行うことで、より精度の高い経営戦略を練ることが可能です。

シェア理論は大企業や都市部の企業のみに有効だと捉えられがちですが、適切な市場を定義し、地域別シェアや顧客別シェアなど、競合局面ごとのシェアを把握することで、様々な業種・地域・規模においても有用であると考えられます。

是非この機会に、中期経営計画の策定をはじめとする企業経営に、リサーチの結果を活かしていただければと思います。
当社では市場調査をはじめ、企業経営に活かせるリサーチサービスを提供しています。
ご関心を持っていただけましたら、是非こちらまでご連絡ください。

<参考文献・関連リンク>
福永雅文(2018)『ランチェスター戦略「弱者逆転」の法則』
戦国マーケティング株式会社ホームページ 

 

この記事を書いた人

長谷川 順太大阪事務所 MR課

大学院修了後、大手経営コンサルティング会社にて、マーケティング戦略構築・実行支援、経営戦略・経営計画策定支援などに従事。現在は大阪事務所MR課に所属。リサーチ・コンサルティング・アカデミックの3領域における手法の融合、それによる最適な解決策の導出を目指して奮闘中。修士(経済学)。

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