データから投票行動を分析してみた!〜SSJDAでの研究事例紹介〜

ごあいさつ

こんにちは、ライターの田原です。
今回は、いつもと少し違う記事を書こうと思います。
2016年度に僕はSSJDA(東京大学社会科学研究所所属社会調査・データアーカイブ研究センター)が行っている二次分析研究会に参加しました。
この研究会は毎年、SSJDAが所蔵しているデータを二次分析し、研究成果を報告するというものです。
今回はその研究会で僕が研究した研究結果を記事にしてみたいと思います。

研究の概要

僕の学生時代の専攻が投票行動研究であったこともあり、投票行動に関心があります。
その中でも特に関心があるのが、無党派層(特定の政党を支持しない有権者)の投票行動です。
投票行動を規定する要因を分析した研究は本当にたくさんあるのですが、僕はその中でも選挙動員が無党派層の投票参加に与える影響を分析しました。
これまでの記事でも何度も言っているリサーチクエスチョンは「政党支持層と無党派層では選挙動員が投票参加に与える影響はどのように異なるのか」です。

選挙動員の形態と仮説

選挙動員のパターンは多種多様です。
選挙動員のパターンについては、平野(2015)の政党からの働きかけのパターンと同様に、「対人による動員」、「新聞・ビラによる動員」、「ハガキによる動員」、「電話による動員」、「インターネットによる動員」の5つとしました。
この5つの要因を「直接的な動員か間接的な動員か」「特定を対象とした動員か不特定を対象とした動員か」に分け、政党支持を持つ有権者と持たない有権者とでどのように異なるのかを分析しました。

この選挙動員の形態と、三宅(1985)の政党支持の類型論を用いて、以下の仮説を導出しました。(仮説の導出過程は長くなるので、気になる人は出典を読んでもらえればと思います)

仮説1「対人動員は政党支持層の投票参加を促進する」
仮説2「新聞・ビラによる動員は政党支持層の投票参加を促進する」
仮説3「ハガキによる動員は無党派層の投票参加を促進する」
仮説4「電話による動員は政党支持層の投票参加を促進する」
仮説5「インターネットによる動員は無党派層の投票参加を促進する」

分析方法と分析結果

仮説の検証にあたっては、「変動期における投票行動の全国的・時系列的調査研究(JESⅣ SSJDA版)、2007-2011」のうち、「第2波2009年衆議院選挙前調査」と「第3波2009年衆議院選挙後調査」を対象に分析を行いました。
従属変数には「第3波2009年衆議院選挙後調査」のQ1「さっそくですが,あなたは8月30日(日曜日)の衆議院選挙の投票に行きましたか.」という質問を利用し、「投票した」を1、「棄権した」を0とし、従属変数が0と1の値を取るダミー変数であるため、分析には2項ロジスティック回帰分析を用いました。
なお、分析にあたってはSTATA.ver14.12を用いています。

動員のみを投入したモデル1と動員と無党派ダミーの交互作用項を投入したモデル2の推定結果が上記となります。動員のみのモデル1では無党派ダミーが負の方向に5%水準、新聞・ビラが正の方向に5%水準、年齢が正の方向に1%水準、団体加入数が正の方向に1%水準で統計的に有意な結果となっています。動員と無党派ダミーの交互作用項を投入したモデル2では、新聞・ビラが正の方向に5%水準、無党派ダミーとハガキの交互作用項が正の方向に10%水準、年齢が正の方向に1%水準、団体加入数が正の方向に5%水準で統計的に有意な結果となりました。

無党派ダミーでコントロールした上でも、新聞・ビラは正の方向に5%水準で統計的に有意であることから、新聞・ビラは政党支持層と無党派層の両方で投票参加に正の影響を与えるといえ、また、無党派ダミーとハガキの交互作用項が正の方向に10%水準で統計的に有意であることから、ハガキは無党派層の投票参加に正の影響を与えることがわかります。ここから、仮説2「新聞・ビラによる動員は政党支持層の投票参加を促進する」は全面的に支持されたとはいえませんが、政党支持層と無党派層両方の投票参加を促進することがわかります。また、仮説3「ハガキによる動員は無党派層の投票参加を促進する」は支持されたといえます。

次の図はモデル2の主効果及び交互作用の中で、統計的に有意であることが確認された新聞・ビラ及びハガキについて、その他の変数を平均値に固定した上で投票参加確率をシミュレーションした結果です。ここから「新聞・ビラによる動員」を受けると、投票参加確率が0.94から0.97に上がること、「ハガキによる動員」を受ければ、無党派層で投票参加確率が0.91から0.96に上がることが確認できます。

 

「対人による動員」、「新聞・ビラによる動員」、「ハガキによる動員」、「電話による動員」、「インターネットによる動員」の5つの選挙動員の形態に着目し、政党支持層と無党派層でどのように効果が異なるのかの実証的な分析を行った結果は「新聞・ビラによる動員」は政党支持層と無党派層の両者の投票参加を促進する、「ハガキによる動員」は無党派層の投票参加を促進するというものであり、政党支持層と無党派層で投票参加に影響を与える選挙動員の形態が異なることが明らかになりました。また、これまで動員の効果があるとされていた対人的な動員の効果を確認することはできませんでした。これは、無党派層が増加しているという背景も考えられますが、これまでの人的なつながりを基にした組織的な集票機能が低下していることを示唆していると考えられます。

おわりに

今回は僕が分析した結果を簡単に紹介してみました。
リサーチャーというとデータを集めるお仕事というイメージが強いですが、このような分析も行います。
ただ、分析結果というのは意思決定のバックデータとなるので、基本的には公開されません。
リサーチャーは、データ収集はもちろんのことある程度の分析技術も持ち合わせています。
データ収集だけではなく、分析までできるリサーチャーも多くいますので、分析等でお困りの際はこちらまでお問い合わせください。

僕の研究の詳細は「2016年参加者公募型二次分析研究会 現代日本人の政治意識と投票行動に関するデータの二次分析 研究報告書」に載っています。
気になる方はご一読いただけると幸いです。

 

この記事を書いた人

田原 歩

最強の男

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