食糧危機の救世主 昆虫食とは?

2013年.国連食糧農業機関(FAO)が発表したとある報告に注目が集まった。
人口増加がこのまま世界で進むと、2050年には食糧危機がやってくるという。
この危機を打破するための解決策のひとつとして挙げられたのはなんと昆虫食だった。
ざっとメリットをおさらいしておくと、

●栄養が豊富である(牛や豚と比べて可食部が多い)
●牛や豚と比べ少ない餌で生産が可能
●メタンガスをほとんど出さない
●小さなスペースでも生産可能(虫かごで飼育できるなど)

また上記の点を踏まえたエネルギー効率の良さから

●環境に優しい

という点が挙げられる。

参考:「Edible insects Future prospects for food and feed security 」国際連合食糧農業機関(FAO)

これだけを見ればまさに未来を担うスーパーフードである。
だが日本でもイナゴの佃煮や蜂の子などがあるが、一般的な食材としては考えられないであろう。
どちらかといえば罰ゲームやゲテモノの印象が強い昆虫食。
近年この食品にアツイ注目が集まっている。
実際のところはどうなのだろうか?

昆虫食の専門店bugoom

すっかり肌寒くなった10月。天神の街は賑わっていた。
今日が日曜日ということもあるが、何よりこの街は若者向けのお洒落な店が多い。
どの通りも、若者たちのパワーに満ちている。
それはまた、日本で数少ない人口増加県の主要都市である福岡市の底力を見せつけているようだ。
私はやや緊張した面持ちで路地裏を歩く。
天神といえば、三越百貨店のある渡辺通りなどがメインストリートとして有名であるが、実は通りを外れるとなかなか道が入り組んでいる。
今日のお目当てはその目立たない通りにひっそりと佇んでいた。
昆虫食の専門店bugoom(バグーム)。
こぢんまりとしていて、入るのに少し勇気のいりそうな店構えだ。
私は2、3周辺りをウロウロして気持ちを落ち着かせると、意を決して店に入った。

bugoom大名店

bugoom大名店。店はなかなかお洒落な構えである。
スッとしたデザインで、はじめての人はお洒落な服屋か何かのように思うだろう。
心なしか虫のシルエットさえ洒落て感じられる。

bugoom大名店は日本サプリメントフーズ株式会社が運営している。
元々はオンラインショップで販売していたが、今年の5月に実店舗が開店したのだ。
店内に入ると、そこかしこに昆虫食とおぼしき商品が並んでいる。
以前、友人に薦められてライトな昆虫食を食べてみたことがあるが、実際に入店してみるのは初めてであった。どれも見たこともない品物ばかりである。

一番人気の商品だというバンブーワームとヨーロッパイエコオロギ。白いパッケージはbugoom独自のブランドで、タイで生産されている。他にも多様なメーカー発の商品があり、この昆虫食という業界の奥深さが分かる。(写真:bugoom提供)

瓶に詰められた見本サンプルの虫たち。並べられると中々の迫力である。(写真:bugoom提供)

試食してみた

店長の関幸祐さんがすすめてくれたのがヨーロッパイエコオロギの試食。
初心者向けの昆虫食だという。
みると、コオロギの姿そのままである。
恐る恐る口にほおばると、なるほど。サクサクとしていて、スナック菓子のような親しみやすい食感である。
初心者向けというのも頷ける。
「次はこれで“追いコオロギ”をしてみてください」聞き慣れない日本語を奇妙に思いながら、関さんが指し示す方向を見ると、そこには「コオロギ塩」と説明書きがある調味料らしきものがあった。

試食のイエコオロギ。白い粒粒はコオロギ塩である。

 

追いコオロギという新しい日本語が誕生した…(写真:bugoom提供)

これもまたおっかなびっくり手に持ったコオロギにかけて食べてみる。
普通の塩味である。
だがこのコオロギ塩もまた昆虫食。
岩塩と共にコオロギの粉(パウダー)が入っているのだ。
昆虫食といえば、昆虫そのままを食すような、どちらかといえばゲテモノのイメージが強い。
日本では特に明治以降の衛生観念の発達から、虫と言えば不衛生な場所に発生するものという見方が定着したのも原因のひとつとして挙げられるが、現代の日本人にとって馴染みの薄い食材である、というところも大きなハードルとなっているだろう。
だが、そんな昆虫食に対する人々の抵抗感を少しでも和らげようとメーカーは日々研究をしている。
この昆虫を粉(パウダー)状に加工した商品もその一つである。
中には、これらの粉を混ぜてハンバーグにしたり、パンケーキにしたりといったものも出てきている。
もし昆虫食が世間一般に浸透するとしたら、まずは加工されたものとして世に出てくる可能性が高いだろうか。
勿論、昆虫食らしくない昆虫食はこのコオロギ塩だけではない。店内には実に様々な商品があった。

バンブーワームウォッカ。つ、漬け込まれている…(写真:bugoom提供)

コオロギせんべい…コオロギスナック…コオロギオツマミなど。未来と名が付いているのは来るべき食糧危機を見据えているのか(ちなみにここには無かったが、今年の春に無印良品もコオロギせんべいという商品を販売し、話題沸騰中である)(写真:bugoom提供)

タガメサイダー!?タガメのエキスが入っているらしい。宣伝文の「フルーティー」が食欲をそそるが、同時にタガメの感触も思い出されるのでやや複雑な心地である。

沢山の商品を拝見させて頂いている間にも、店内に目まぐるしく客がやってきては入れ替わる。

初めにやってきたのは女子大生の3人組。試食のコオロギに興味津々であった。
次に来たのは、何だか金髪でイケメンな若者。試食のイエコオロギを面白がり、瞬く間に商品をひとつ購入していった。
最後は高齢者。子供の頃によく食べたという蜂の子の缶詰を懐かしがり、関さんと談笑した後、彼もまた購入していったのである。
この間、約15分ほど。
性別年齢関係ない客層の多様さに驚くが、入店してくるお客さんは好奇心の旺盛な方が多く、それがこの高い購買率に繋がっているという。
それにしても若者だけでなく老人の心さえ掴んでしまうとは。昆虫食市場の化け物じみたポテンシャルが感じられる。

蜂の子など老人が懐かしがるものからコオロギを使ったお菓子まで。幅広い層を捉える魅力の原因にはこのような多彩さもあるのだろう。(写真:bugoom提供)

しかし、この昆虫食。先ほども述べた通り、日本では未だイロモノやゲテモノとしてのイメージが根強い。
また、昆虫は天然より養殖のほうが栄養管理が安定し、商品化しやすいのだ。
まだまだ日本では大規模な養殖等の体制が整ってなく、安価な大量生産は難しいのが現状である。
だが、業界ではもし日本で昆虫食の食材が現れるとしたらバッタかコオロギの系統だろうという推測もある。
バッタは、餌とするイネ科の植物が日本には多く、育てやすい環境が整っている。
また、コオロギはペットの餌として飼育している業者も多く、それらが昆虫食の養殖業者にシフトする見込みが高い。
将来の食糧危機。日本を飢餓から救う救世主になるのは彼らなのだろうか?
もしそうなのだとしたら、早いとこゲテモノのイメージを払拭し、今のうちから慣れておくのがベストかもしれない…。

商品を購入してみた!

bugoomで私は3点の商品を購入した。
コオロギを粉状にしたソフトパン、タガメサイダー、それとbugoomブランドのサゴワーム(サゴゾウムシの幼虫。カブトムシの幼虫に似ているといったらイメージが沸くだろうか?)である。
これら全てを私が食するのもいいが、私1人がモソモソと食べた様をレポートしても、それは絵的にはあまり映えないだろう。
やはり、第三者の客観的な感想が必要である。
なので3点のうちの1つ、タガメサイダーは職場の先輩社員さんに家に帰ってから試食してもらうことにした。

果たしてその感想とは。

週明けの翌営業日に社内サイトを通じてメッセージが届いた。

「昆虫は苦手だけど、昆虫の姿をしていない飲み物だから昆虫の入門にはぴったりかも。見た目も透明で、言われなければ気づかないほどいたって普通のサイダー。味も青りんご風味で、爽やかでした。普通に美味しかったです(^-^) でも昆虫の「食べ物」にはやはりまだ抵抗があるので本格的な昆虫食デビューはまだまだ先になるかな笑」

忙しい中、また昆虫が苦手なのに試飲に付き合っていただいた先輩には感謝の念が絶えないが(大変気を使っていただいた気がする)、そんな抵抗のある先輩をうならせたタガメサイダーにはやはり本物の美味しさがあるのだろう。
動物だの昆虫だのという垣根で考えること自体、そもそも無意味なのかもしれない。

さて、次は残りの二点である。
ひとつは正統派の昆虫食とソフトパンの昆虫食。
どんな味なのだろうか?
タガメサイダーのように美味しければ良いのだが…。

サゴワーム。コオロギのソフトパンの缶詰。

はちみつ干し梅 …?と思ってよく見たらやっぱりサゴワームだった。

まずはサゴワーム。
試食で気が大きくなっていたので、少しハードルの高そうなものを買おうとして購入したのである。
サゴワームとは甲虫の幼虫。
見た目はカブトムシの幼虫に似ているので、幼いころにカブトムシを捕まえて遊んだ私にとっては、やや馴染み深いようにも思えた。
ところが、実際に食しようとすると、なかなか口に運べない。
何故だか今にも幼虫が動き出してきそうなリアリティがあるのだ。
第一、頭の黒い部分が見慣れた幼虫なのである。
しかし今度もまた勇気をだしてみる。
噛みしめて食べると、後は平らげるまで簡単だった。
家コオロギのスナック菓子とも違う、ピーナッツの食感である。
量産化されたら酒のオツマミとして売り出されそうだ…。
関さんによると、昆虫を大まかに成虫と幼虫の二つに分けると、幼虫は油分が増えるので、ナッツの風味。成虫はたんぱく質の割合が高く、大豆に近い美味しさになるという。

次はコオロギパウダーを使ったパンケーキ。
缶詰裏には徳島大学の文字がある。
昆虫食の量産化に大学が研究に乗り出していると聞いたことがあったが、それは徳島大学のことだったのか。
缶詰を開けて、パンケーキを取り出す。
ただパンケーキを食べるだけでは味気ないので、インスタントのミルクティーと一緒に頂いた。

ちゃんと原材料名に「こおろぎ」と記載があるのがシュールである。

なんと徳島大学の名前が!徳島大学発のベンチャー企業「大学シーズ研究所」が開発した商品だという。

インスタ映えしそうな佇まい。原材料にコオロギを使っているなどとは誰も夢にも思うまい。

小麦粉の食感が口に広がる。
ところどころに入っているチョコの甘さが何ともいえないアクセントを引き出している。
要するにチョコ入りのパンケーキ。コオロギの痕跡など、このティータイムにはどこにも存在しなかった。
ミルクティーでパンケーキをお腹に入れて、綺麗に食べてしまった。

昨今、アフリカではバッタの大量発生。
また毎年のように世界各地で起こる異常気象など、食糧の安定供給への不安は尽きない。
食料危機は2050年と言わずとも、間近に迫ってきているのだ。
しかし、ただ手をこまねいているというわけでもなく、昆虫食という市場を開拓し、研究開発を進めている会社や大学があるのも事実である。
bugoom大名店店長の関さんは、「純粋に昆虫を食材として楽しんでもらえたら嬉しい。主流になればいいとまでは思わないが、肉や魚と変わらない感覚になればいい。」と話す。
元々、日本には50 種類の昆虫食が大正時代まで食されていた。
日本では(衛生観念の変化)昆虫食が衰退していったが、現在でも、昆虫食は世界で20億人に食されているという。
時代の変化なのである。時代の変化で昆虫食が衰退したのなら、それが再び勃興するのもまた時代の変化。
今回の記事では、ややゲテモノ要素も交えて面白く書いたつもりであるが、それが全く笑いにならないほど、日常的に昆虫が食卓に並ぶ時代がすくそこまでやってきているのかもしれない。
私たちは、もっと素直な気持ちになってこのスーパーフードを食すべきではないだろうか?

 

取材協力:
bugoom大名店
福岡県福岡市中央区大名1-3-5 ARK CUBE 103号室(西鉄天神駅から徒歩8分)

昆虫食の専門店 bugoom通販サイト

 

 

この記事を書いた人

石田

新卒社員。人生ではじめての土地・福岡に馴染むために、仕事・プライベート両方で日々奮闘中。

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