福祉ニーズの複合化・複雑化について考えてみた

2023.06.08

0

福祉のおはなし

こんにちは、ライターの山村です。
私たちも仕事をする中で、簡単に「福祉の視点」とか「福祉ニーズ」という言葉を使いますが、これ、具体的には何なのか? 何を指しているのか? そんなことを考えさせられることが最近多かったので、この機会に少し整理してみたいと思います。

今回は「福祉ニーズ」について考えてみます。

「福祉ニーズ」は複合化・複雑化している⁉

まず、「福祉ニーズ」とは、具体的には何でしょう?

わかりやすいところでは、自立度が低下した高齢者には介護保険や生活支援サービスが必要ですし、加齢や障害のために歩行が困難な人には状態に応じた補装具や車いすなどが必要ですね。

これらはわかりやすい「福祉ニーズ」だと思います。

しかし、近年では、人々の福祉ニーズが「複雑化」「複合化」しているということが指摘されています。

令和2年の社会福祉法の改正の説明資料には、改正の趣旨として”地域共生社会の実現を図るため、地域住民の複雑化・複合化した支援ニーズに対応する包括的な福祉サービス提供体制を整備する”ことの必要性が記載されています。

この視点から創設されたのが「重層的支援体制整備事業」です。

この事業の説明は別の機会とし、今回は福祉ニーズの「複雑化」、「複合化」について、少し考えてみましょう。

「個人支援」から「家庭支援」へ

厚生労働省の「地域共生社会のポータルサイト」に、少しわかりやすい言葉で説明されている部分がありますので紹介します。

ここでは、重層的支援体制整備事業の創設の背景を、既存の支援と”困難・生きづらさの多様性・複雑性から表れる支援ニーズとの間にギャップが生じてきたこと”と表現しています。”複雑”という要素はそのままですが、”多様性”は新たに用いられている言葉です。

要するに”人それぞれ”ということです。
福祉ニーズは十人十色、千差万別ということなのです。

ポータルサイトでは、「福祉ニーズ」の捉え方について、従来型の典型的な課題や子ども・高齢者・障がい者などの対象者の属性を前提とした捉え方だけでなく、多様性・複雑性の視点が必要であることを指摘しています。

具体的には、社会的孤立8050(80歳代の親が50歳代のひきこもりの子どもを支えるという問題)、ダブルケア(育児と介護を同時に担う問題)などが例示されています。

8050やダブルケアは、個人ではなく家庭・世帯単位での課題であることにお気づきでしょうか。
対象者の属性を前提としたアプローチでは、家庭や世帯の課題に対応できない場合があります。

そのため、既存の制度では充足できない多様な福祉ニーズが生じます。

こうした状況を踏まえ、すでに今日の福祉の現場では、「個人支援」から「家庭支援」へと、視点がシフトされはじめています。

さらに多様な「福祉ニーズ」

そのほかにも、今日注目されている課題に”ヤングケアラー”がありますが、これも「複合化」「複雑化」の典型です。家庭的な要因や保護者の意識などが影響している場合が多く、今のところヤングケアラーを直接的に支援する制度はありません。そのため、ヤングケアラーの解消には、本人や家庭の状況をきめ細かくアセスメントして継続的にモニタリングし、関係する諸機関が密に連携して情報を共有し、既存の様々な制度をうまく活用していくことが必要となります。

さらに、近年、司法と福祉の連携も注目されはじめています。平成15年から令和3年までは犯罪件数(刑法犯の認知件数)が減少傾向にありましたが、高齢者、障がい者などの犯罪は増加しています。生活困窮、依存症などの疾患、孤立など、犯罪の背景は様々ですが、福祉の支援があれば罪を犯すことがなかったかもしれませんし、社会復帰や再犯防止への支援は必須です。そうしたところにも「福祉ニーズ」が存在し、支援が必要とされています。

このように、いくつか例をあげてみただけでも、福祉ニーズの多様さに驚かされますね。

(注)令和4年の刑法犯の認知件数は、20年ぶりに増加したことが公表されています。

まとめ

今回の記事を通じて、人々の福祉ニーズが多様かつ複雑で、複合化しているということを感じていただければ幸いです。
最後に、各要素を一言で表したら、以下のような感じでしょうか?

  • 多様性:人それぞれ
  • 複合化:いろいろな課題が混在
  • 複雑化:従来の制度では対応できない

こうした考え方が発展し、少しでも人々の”困難や生きづらさ”が軽減される社会となることを望みます。

(参考)

地域共生社会のポータルサイト(厚生労働省)
地域共生社会の実現のための社会福祉法等の一部を改正する法律(令和2年法律第52号)の概要

この記事を書いた人

山村 靖彦

コラバド編集者。社会福祉士。

スポンサードリンク