困難な問題を抱える女性への支援に関する法律の成立を機に、「福祉の視点」を考えてみよう!

2023.09.19

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福祉のおはなし

 

こんにちは。ライターの山村です。

前回の投稿「福祉ニーズの複合化・複雑化について考えてみた」では、福祉ニーズとは?福祉の視点とは?ということについて考えてみました。

様々な現状を見れば見るほど、現実には多様な福祉ニーズが混在しているというのがこの社会の実際の姿なのだと思い知らされます。

今回は、昨年成立した「困難な問題を抱える女性への支援に関する法律(以下、「困難女性支援法」とします)(令和6年4月1日施行)」を踏まえて、困難を抱える女性の福祉ニーズを考えてみたいと思います。

困難女性支援法の概要

まず、困難女性支援法の概要を見ていきましょう。

法律では、目的を以下のように定義しています。

”第1条 この法律は、女性が日常生活又は社会生活を営むに当たり女性であることにより様々な困難な問題に直面することが多いことに鑑み、困難な問題を抱える女性の福祉の増進を図るため、困難な問題を抱える女性への支援に関する必要な事項を定めることにより、困難な問題を抱える女性への支援のための施策を推進し、もって人権が尊重され、及び女性が安心して、かつ、自立して暮らせる社会の実現に寄与することを目的とする。”

「女性の福祉の増進」という言葉が明記されていますから、この施策に関わる人はこの視点から逃れることができません。

つまり、「女性の福祉の増進とは何?」に明確に答えられなければなりませんね!

また、同法では、国や地方公共団体に「困難な問題を抱える女性への支援のために必要な施策を講ずる責務」を課し、国と都道府県には基本方針・基本計画の策定を義務化しています。(市町村は努力義務)

困難女性支援法による支援

同法に規定されている支援策は、従来の「婦人保護事業」をベースに、それらをさらに充実したものとなっています。

元々、婦人保護事業は、売春防止法を根拠とする事業で、買春の恐れのある要保護女子の保護更生を目的とした制度でした。

しかし、今日の女性を取り巻く困難な要因は、生活困窮、性暴力・性犯罪被害、家庭環境破綻など、多岐にわたります。さらに、コロナ禍を機に、家庭等に居場所のない若年女性たちの存在が顕在化したことも指摘され、そうした女性も含めて支援していく必要がありますが、売春防止法を根拠とする従来の婦人保護事業にはそこまでの対応能力がないというのが実態でした。

そこであらためて制定されたのが「困難女性支援法」というわけです。

考えられる「福祉の視点」

現実に、女性は、いったいどのような困難を抱えているのでしょうか。

この点については、安易にわかったような発言は出来ませんから、現状を把握した上で問題を真摯に受け止めていく姿勢が必要だと思います。

言葉の上では、「生活困窮」、「性暴力・性犯罪被害」、「家庭関係破綻」などと表現されていますが、これら1つひとつには様々な背景があり、同時に他の様々な課題と結びついているものと考えられます。

例えば「生活困窮」。
この背景には、男女の経済力の格差の問題があることが考えられます。

男女共同参画局のデータを見ると、我が国の男女間賃金格差は縮小傾向にあるものの、諸外国と比べると未だに格差が大きい状況にあることがわかります。

令和3(2021)年のデータでは、男性一般労働者の給与水準を100とした場合の女性一般労働者の給与水準は75.2です。

(出典)男女共同参画局「男女間賃金格差(我が国の現状)」

このように、経済的に脆弱な立場にあることが多い女性が、「家庭関係破綻」などの問題に直面した場合、「生活困窮」に陥りやすいことは容易に想像できますね。

この場合、賃金格差の解消という社会問題に着目することはとても重要なことですが、それを福祉の力だけで解決することは困難です。

「生活困窮」への具体的な支援は、既存の制度では「生活困窮者対策」ということになると考えられますが、その場合でも、対象女性が生活困窮に至った背景要因を加味して支援のあり方や制度変革を考える(例えば、女性の立場に配慮した受給手続きの確立や要件の緩和、支給の決定や実施する速度の検討など)という視点は不可欠です。

利用可能な従来の制度を考えて当てはめるだけ”というのは事務的な視点であり、福祉の視点とは言えません。

もちろん、”しくみを変える”、”制度を変える”というのは、言うほど簡単なことではありませんが、考えて、変革の必要性を提案することをしなければ、今のしくみや制度は変わりません。

必要な変革を志向することも「福祉の視点」です。

困難女性支援という新たな切り口の施策や業務に関わる人間として、このような「福祉の視点」を持つことを忘れてはならないと思います。

私たちが持つべき視点とは?

最後に、福祉課題やそれらに関する業務に関わる私たちが持つべき視点を整理してみます。

①様々な課題はつながっているという視点

様々な福祉課題はつながっているという視点を常に持つことが大切です。
今日では、介護保険事業計画に「認知症高齢者の家族やヤングケアラーを含む家族介護者支援の取組」を記載すべきということが提言されているように、「高齢者福祉は高齢者だけに着目すれば問題解決できる」という時代ではなくなってきています。
世帯に要介護高齢者がいれば、その介護のために仕事をやめざるをえなかった人(介護離職者)、遊びや勉強の時間を削らざるをえない子ども(ヤングケアラー)などがいるかもしれません。そうした複合的な課題を捉える視点が不可欠です。

②自分の身にも起こりうるという視点

福祉に関わっていて、いつも思うことは、目の前の課題は「他人事ではない」ということです。

明日はわが身かもしれません。

そうした意識や視点を持つことは、福祉に関わる上ではとても重要なことです。

女性特有の問題が、そのままの形で男性の身にふりかかることはないかもしれませんが、あなたの大切な家族がそうした課題に直面する可能性だってあるのです。
そういう意味からも「他人事ではない」という視点は大切にしたいと思います。

おわりに

今回は、「困難女性支援法」の成立を題材として、どのような視点で考え、どう向き合うことができるのかを文章化してみました。

今回は記載できなかった、「性暴力・性犯罪被害」や「家庭関係破綻」に関する福祉ニーズについても、別の機会に考察してみたいと思います。

福祉的な視点で現実の社会を見ると、本当に問題だらけだと感じさせられますが、今回の法制定やそれに伴う調査や計画策定の1つひとつが、少しずつではあっても社会を良くしていくのだという意識で私たちは関わっていきたいと思います。

この記事を書いた人

山村 靖彦

コラバド編集者。社会福祉士。

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