科学の力でいじめをなくす!① 〜子どもの「行動」へのアプローチを考える~
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こんにちは。ライターの山村です。
今回は、当社が注力している「子どものいじめ解消への取組」について情報提供したいと思います。
少子化が進む現在、子どもは本当に社会の宝ですね!
次代を担う子どもを大切に育てることは、今や社会的な課題です。
したがって、いじめを解消することは、誰もが望むことだと確信しております。
そして今、自治体の現場では、平成31年度末に終了する「子ども・子育て支援事業計画」の見直しが始まっているところです。
いじめの解消は、この計画に盛り込む必須事項ではありませんが、子ども自身の利益を尊重する視点から今回ご紹介する情報に関心を持っていただき、今後の施策に活かしていただければ幸いです。
科学的な方法で“いじめ解消”をめざす!
当社は今、公益社団法人子どもの発達科学研究所(以下、研究所という)が提唱する方法を用いて、学校における子どものいじめの解消をめざした支援を検討しています。
今回は、研究所が提唱する“いじめ解消の科学的な方法”の核となる部分を少しだけご紹介いたします。
各自治体や学校では、すでに様々な取組が進められていることと思いますが、当社が今回ご紹介したいのは“科学的な方法によるいじめの解消”です。
ところで、“科学的な方法”とはどういうことでしょうか?
大切なのは、“再現性がある”ということです。
再現性とは、“同じ条件が整えば同じ現象が起こる”ということです。
たとえば「薬」。
多少の個人差はあっても、薬は病気の治療に効果を発揮しますね。
“ある病気の治療には、ある薬が効果的”という現象が“再現性”です。
研究所が提唱しているのは、科学的根拠に基づき、再現性がある方法でいじめを解消しようというものです。
まず、子どもの「行動」を分析する!
研究所が提唱するいじめ解消プログラムは、行動分析学(応用行動分析)を用いて、子どもの「行動」を分析するところから始まります。
「行動」の分析には、「ABC分析」という方法を用います。
これは、「行動」(Behavior)を、
その「原因(先行条件)」(Antecedent)と、
「結果」(Consequence)との関連性から分析する手法です
(3要素の頭文字からABC分析と呼ばれています)。
たとえば、「友達をいじめる」という子どもの行動を分析してみましょう。
図1をご覧ください。
「友達をいじめる」という行動には、「イライラしていた」、「感情コントロールができない」、「大人の目がなかった」などの先行条件(原因)が考えられます。
そして、「友達をいじめた」結果、「すっきりした」とか、「自分はすごい(自己肯定感)」という“良いこと”が起きてしまっています。
このように、行動の「結果」として“良いこと”が起きると、その「行動」は繰り返される(「強化」される)というのが行動分析学の考え方です。
そして、「友達をいじめる」という行動が生じないようにするためには、先行条件が整わないようにすることと、行動の結果に“良いこと”が生じないようにすることの2つの方法があります。
図1の例の「すっきりした」等の「結果」は主観であり、そのコントロールは難しいので、この場合は「先行条件」が整わないようにしていじめが発生しない環境を作ることが現実的な取組だと考えられます。
具体的には、“感情コントロールの方法を学習させる”ことや“大人の目を行き届かせる”ことなどにより、先行条件を変化させることができます。(図2参照)
子どもの「行動」を変える、大人の「適切な指示」とは?
ところで、子どもの適切ではない「行動」に対して、大人は通常どのような指示をしているでしょうか?
たとえば、授業中に騒がしくしている子どもに対して「静かにしなさい!」とか・・、
廊下を走る子どもに対して「廊下を走らない!」とか・・。
そういう指示をしていないでしょうか?
子どもの望ましい「行動」を引き出すためには、「行動への指示」が必要です。
「静かにしなさい!」とか、「廊下を走らない!」という指示は、はたして「行動への指示」でしょうか?
これを確認する方法として、「デッドマンテスト」があります。
これは、「デッドマン(死人)にできることは“行動”ではない」という観点から判定する方法です。
先ほどの「指示」を見てみましょう。
「静かにする」、「廊下を走らない」、これらはいずれもデッドマンにできることですから、「行動への指示」とはいえません。
「静かにしなさい!」ではなく、「黒板を見て、先生の話を聞きましょう」とか、
「廊下を走らない!」ではなく、「廊下は歩きましょう」などと変換すれば、具体的な「行動への指示」になります。
このほうが、子どもにとってもわかりやすいですね。
デッドマンテストを活用し、具体的な行動を指示することが大切です。
あいまいな指示は、子どもを混乱させる!
デッドマンテストでは、否定形(〇〇しない等)、変化を観察できないこと(静かにする等)、受け身的表現(認められる等)は、いずれも「行動」とは見なしません。
他にも、「ちゃんと掃除しなさい」とか、「ていねいに書きなさい」なども、変化を客観視できないあいまいな指示といえます。
事例で考えてみましょう。
「A君は、先生に「ちゃんと掃除しなさい」といわれて、一生懸命に掃除しました。
ところが、A君はちょっと不器用で、“四角い部屋を丸く掃く”ような掃除しかできず、先生に叱られてしまいました。」
これは、「ちゃんと掃除する」ことの基準があいまいで、A君の基準と先生の基準が一致していなかったことによる結果と考えられます。
つまり、具体的な「行動の指示」になっていなかったということです。
このような、あいまいな指示の結果、A君は、先生の顔色をうかがいながら掃除するという経験を積むことになってしまいます。
この場合、「ちゃんと掃除しなさい」ではなく、「部屋のすみまできれいに掃除しましょう」などと変換すると、わかりやすい「行動への指示」となります。
子どもの「行動」は変化する!
今回の記事では、研究所が提唱する“科学的な方法によるいじめの解消”の核となる、“子どもの「行動」に着目したアプローチ”について少しだけ情報提供しました。
いじめは、子どもの「行動」ですから、その行動を変えることで“解消”できるわけですね。
でも、実際のいじめは学校という“社会”で発生していますから、子ども個人の行動の影響だけではなく様々な力が関与して発生しています。
そのため、研究所が提唱する“いじめ解消プログラム”では、「考え方を変える」、「行動を変える」、「集団を変える」という3つの変化(トリプルチェンジ)に着目しています。
ともあれ、子どもの行動を変化させるというアプローチは、いじめ解消を考える上での重要なスキームであることは間違いありません。
このテーマについては、今後も関連情報を発信していきます。
引き続きご覧いただければありがたいです。
(関連リンク)
公益社団法人 子どもの発達科学研究所
こころの発達アテンダントベーシックコース
こころの発達アテンダントスマイルコース(保護者さん向け)
学びの発達アテンダントベーシックコース
いじめ予防プログラムTriple Change
当社は、いじめの解消のための調査をはじめ、子どもの発達科学研究所とともに様々な支援を提供していきます。関心を持っていただきましたら、ぜひこちらまでご連絡ください。
この記事を書いた人
山村 靖彦名古屋事務所
コラバド編集者。専門は社会福祉(社会福祉士)。 数多くの行政計画策定を支援してきた経験から、いろいろな提案をしていきたいと考えています。