レトロ古着屋でみつけた新しいキモノのかたち

レトロ古着屋に行ってみた

はじめてモアと出会ったのは去年の11月、友人と福岡の六本松エリアを散策していた時にお洒落な外観をみて「おや…」と思い入ったのがきっかけである。
私は幼い頃から転勤族の家庭で育ったので、名古屋、大阪、京都、神奈川と各都市の面白い場所を見てきているという自負が恥ずかしながらあったが、閑静な住宅街にポツンと、飛び地のように独特な空気があるのには驚いた。
この日だけにたまたま出現した幻のお店なのではないかと、訝しみつつも入ってみると、そこは異世界である。
店内は赤を基調とした落ち着いた色合いで、店主のマドカさんの温かい接客が印象に残っていた。
私は持っている服のほとんどが兄や父のおさがりである。
口が裂けても、お洒落にセンスがあるなどとは言い難く、ブティックなどというシロモノには足を踏み入れることはないと思っていたのだが、このカラフルブティックモアには大変惹かれるものがあった。
惹かれた理由は主に二つある。
第一に店全体から漂うハイセンスさ、そして第二にここがキモノを扱っているお店でありながら、良い意味での「らしくなさ」を感じたことである。

 

コンセプトは「オトナのレトロポップ」
まだ見果てぬどこかヨーロッパの街にあるような趣。マネキンが怪しく微笑んでいる。(右の写真はモア提供)

2階は着付け教室になっており、大正ロマンをコンセプトにマドカさんが内装をデザインしたという。モダンな雰囲気に包まれて着付けの勉強をしてみるのも良いかもしれない…。(写真はモア提供)

実は私、今でこそ駆け出しリサーチャーをしているが、就職活動の頃は呉服業界も考えており、幾つか説明会に顔を出していたことがある。
その少ない感覚で語ってしまうことになるが、モアのキモノは私が触れたどの着物屋と比べても違っているように見えた。
バブル期には2兆円を超す産業と呼ばれた呉服業界であるが、バブル崩壊後から徐々に売り上げが減少。
現在では3000億円ほどまで縮小してしまっている。
洋服文化の定着、悪徳な着付け教室での押し売りによるイメージの悪化、洋服文化への対抗の為の高価格化路線への変更が、現状を招いたと言われている。
一方、アニメキャラクターのコスプレ需要がジワジワと追い風になっていることも事実だ。
現在、着物は転換期であるのだろうか。
呉服業界が縮小したと言われている今、モアが扱っているキモノとは果たしてどのような形なのだろうか。
取材して話を聞いてみた。

レトロで独特な世界観広がる店内

モアの店主マドカさんは成人式が間近に迫っている繁忙期の中、取材のために時間を作ってくれた(勿論、ソーシャルディスタンスを保ちながら)。
一度だけ顔を見せた私の事も覚えていてくれていたようでとても嬉しかった。
取材に移ろうとすると、ふと店内にジャズが流れていることに気付く。
聞くとジャズ奏者マイルスデイヴィスの「飛び立てジャック」である。
テリーギリアム監督の映画「フィッシャーキング」でこの曲を知ったのであるが、店内の世界観とマッチしているせいか、BGMとしてとても心地よい。
それにしてもアメリカ文化のひとつであるジャズと日本のキモノが同じ空間で馴染んでいるから不思議である。
それもまたモアの魅力の為せる業なのだろう。

お洒落でレトロな世界観。50’s~70’sの レトロモダンファッションを意識しているという。

この鹿は一体…。

お洒落なアクセサリーたち。

モアは1階と2階に分かれている。
1階はヨーロッパヴィンテージとアンティーク着物を主に扱っており、2階は着付け教室となっている。
内装といい、品物といい、マネキンに至るまでついつい目を惹かれてしまうものばかりである。
古着屋というよりもはやアトリエ。
まるで置かれている品々までが、元々その場所に飾られるべき作品であるかのように収まっている。
マドカさんは品物をはるばるヨーロッパまで買い付けに行くというが、海の向こうのヨーロッパからやってきたものが、海のこちらの日本の福岡で私と今日たまたま出会ったと考えると、独特なお店の雰囲気も相まって、何とも感慨深い気持ちにさせられるものである、これぞ古着屋さんの醍醐味であろうか。

色鮮やかなアンティーク着物

さて、魅力的な店内の世界観を紹介したところで、商品であるキモノの紹介に移りたい。
しかし、一口に着物といっても、モアのキモノは一味違う。柄がカラフルで可愛いものから、色が鮮やかなものまで。
まさに店のコンセプトである「大人のレトロポップ」という言葉がしっくりくる。
マドカさんによると、モアで扱っているキモノは、ほとんど大正~昭和初期のものだという。
着物は戦前と戦後で時代が分かれる。
戦前は着物が日常的に人々の生活にあった時代。
つまり着物が普段着として使われており、輸入が多い現代とは違い原料や素材から日本で作られていた時代である。
この時代の着物は、「アンティーク着物」と呼ばれ、戦争で焼けてしまったものが多く、数は少ないが、縫製や染が丁寧であることで知られている。

対して戦後の「リサイクル着物」はハレの日に着るものとして使われていた時代である。
またアンティークに比べると無難な色合いが多い。
私たちが普段着物として見かけることが多いのはリサイクル着物のほうである。

モアオリジナル着物。ヴィンテージの生地から復刻して作った着物でお揃いの帯もある。コロナが収まったらモアの着物を着て夜店を冷やかそう…。
一番上の緑の花柄と2番目にあるさくらんぼの柄が可愛い…。

大正~昭和初期の着物が置かれている。どれも一点物である。

お洒落な鼻緒の下駄や草履。奥にみえる着物バッグもハイカラだ…。

実にお洒落な着物の数々。
アンティーク着物は本来、安価な点が特徴的だったが、近年希少価値も高まっており、年々価格が高騰しているらしい。
着物は紋の数で「格」が決められているため、物によっては変動するものの、リサイクル着物は数千円~と安価なのに対し、アンティーク着物は数万円もする。
だが高価な価格を補って余りある魅力がアンティーク着物にはある。
昨今では、大正時代の日本を舞台にした鬼滅の刃ブームも来ているので、上手い具合にアンティーク着物との需要がマッチングするかもしれない。
ちなみにモアでは1~2万円と、通常のアンティーク着物と比べて比較的安価なものをセレクトしている。
アンティーク着物初心者にはまさにうってつけのお店といえそうだ。

写真はホームページから。帯締め代わりのベルトが可愛らしい。このように着物に洋服用ベルトを使用する流行は最近のものである。

ところで着物というと、どこか格式が高く、俗に言う「お堅い」イメージがあるのではないだろうか。
確かに着物には紋の数で「格」が決められていたり、模様によって帯の組み合わせがあったりと、難しいルールが沢山ある。
私自身、過去に男物の着物を購入して実際に普段着として着てみようとしたことがあるが、裾が床と擦れ合うため、トイレでしゃがみにくいなど、着慣れないことゆえの戸惑いがあった。
やはり普段使い慣れている洋服と比べると、どうしても近寄りがたいものがあるだろう。
しかし、最近は若い女の子が洋服の上に羽織りを着こんでお洒落したり、外国では身長の高い女性がキモノをガウンのように着たりする姿を見かけるとマドカさんは言う。
ルールに囚われず、独自の工夫で楽しむ。
そんなファッションの当たり前が、着物でも普及していく時代になるのだろうか。
しかしマドカさんは洋服と併せる着方も良いけど、やはりキモノが一番美しく見えるベーシックな着方が好みだという。
「家に引きこもっていると人はネガティブになりがち。内面から変えていくことが喜ばしいが、それはかなり難しい。でもファッションはその日その日で着ているものを変えることが出来るし、着ているもので気分は変わる。一番カンタンに自分を変えられるのがファッションの力。明るい時には明るい色など、ウキウキできるようなものを身に纏って、コロナ禍の今だからこそキモノを着て特別な気持ちになってほしい」と語る。

モアの2階は着付け教室の他にアーティストの展示や楽器奏者のライブにも使用されることが多い。
また、マドカさん自身もキモノを着て演奏をしながら街を練り歩く「ちんどん鈴乃家」というちんどん屋に所属している。
これらの活動をみると、マドカさんの古着屋に留まらない活動範囲の広さが窺える。
目を見張るのがモアを通じて様々な人々が集まってきていることである。
カメラマン、アーティスト、ミュージシャン…。
モアでのイベントを通じて人と人が繋がり、ひとつのカルチャーを発信していく。
お客さんから「出会い系モア」と揶揄されることもあるというその特性は、数多くのファッションを扱う店舗が目指す文化の発信地としての在り方に違いない。
コロナ禍の昨今、アパレル業界では苦境が続いている。
テレワークの普及や自粛により、衣服への需要が激減したからである。
しかし、ファッションの意味は決して無くなることは無いのだ。
それはまたマドカさんの言った「一番カンタンに自分を変えられるのがファッションの力」という言葉にも現れているし、着物のような「ハレの日」のファッションの意味合いはますます強くなっていくに違いない。
取材を終えた後日、福岡天神には成人式帰りの若者が幾人も見受けられた。
コロナ感染者が増えている最中なので例年よりは閑散としているのだが、思い思いに華やかな振袖を着ている若者たちの笑顔はまるで不況など関係ないかのような眩しさである。

暗いニュースばかりの昨今だからこそ、あなたもキモノの力で気分転換をしてはいかがだろうか。

カラフルブティック モア
〒810-0044 福岡市中央区六本松1-4-33
地下鉄七隈線「六本松」下車 徒歩7分
地下鉄空港線「大濠公園」下車 徒歩15分

【営業時間】12:00~19:00
※現在、不定期営業なので注意。興味のある方はインスタグラムをチェック

カラフルブティック モア インスタグラム

 

注)文中では、一般的にイメージされる伝統的な着物を「着物」、モアで扱われているようなモダンでファッショナブルな着物を「キモノ」とあえて表現しています。

 

 

この記事を書いた人

石田

新卒社員。人生ではじめての土地・福岡に馴染むために、仕事・プライベート両方で日々奮闘中。

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