ETC車載器を読み取る通信技術「DSRC」で交通量は計測できるのか?
交通量調査の現状と新たな調査手法の模索
はじめまして。ライターの鬼島です。
今回は当社が自主調査として実施した「DSRC技術を用いた車両カウント調査の精度検証」についてご紹介させていただきます。
まず調査の本題に入る前に現在の交通量調査を取り巻く現状についてお話しします。
創業以来、当社の基幹事業でもある交通量調査ですが、現在次のような課題に直面しています。
●国土交通省が交通量調査の手法として従来の人手カウントから画像解析等の機械観測への移行を推奨している
●少子高齢化の影響により人手カウントを行う調査員が高齢化しており、若手調査員の確保も年々難しくなっている
こうした状況を受け、当社としても画像解析等の新たな交通量調査の手法を模索しており、今回取り上げる「DSRC」もその手法の一つになるのではないかと考え、自主調査の実施に至りました。
DSRCとは
さて、今回の主役であるDSRCですが、「初めて聞いた」「DSRCって何?」という人も多いと思います。
DSRCとは、Dedicated Short Range Communicationsの略称で、日本語では「狭域通信」と訳されます。
これはDSRC路側機と呼ばれるアンテナとETC車載器間での狭い範囲を対象とする双方向の無線通信方式のことで、電波を利用してETC車載器固有のデータであるWCN(Wireless Call Number)を読み取ることができます。
このように、DSRCはETCのシステムを支える通信技術の一つであり、ドライバーにとっては身近な存在であると言えるかもしれません。
今回の検証内容について
DSRCの簡単な説明をしたところで、いよいよ本題に入ります。
今回の検証では、DSRC路側機が読み取るWCNを利用して交通量をどれくらい把握できるのかを検証します。
【仮説】
DSRC路側機はETC車載器が発する電波を取得するため、ETC車載器を搭載していない車両は感知せず計測の対象外となる。
ETC車載器の搭載率は自動車全体の約8割程度と言われているため、DSRC路側機によるWCN取得率は実際の車両の通過台数と比較して8割程度になると想定できる。
【検証】
DSRC路側機で取得した車両台数と、同一箇所で同一日時に調査員が計測した調査結果を比較検証する。
複数箇所へ機器を設置し計測することで、地点間のデータのマッチングの精度も検証する。
【調査内容】
・調査項目:自動車交通量調査
・調査手法:(1)DSRC路側機を用いた計測
(2)人手のカウンターを用いた計測
(3)ビデオ撮影による画像解析技術を用いた計測
・調査日時:2022年12月23日(金)9:00~17:00(連続8時間)
・調査場所:東京都北区田端1丁目、2丁目付近の都道458号線(白山小台線)
東台橋~童橋間(機材の設置に関しては管轄の警察署へ道路使用許可を申請済み)
従来の人手カウントと比較した結果・・・
無事調査が終了しDSRC路側機で計測した結果と人手カウントで計測した結果を比較したところ、次のような結果となりました。
DSRC路側機観測と人手カウント観測の調査結果比較(方向、時間帯別)
人手カウントの計測結果を100%とした場合のDSRC路側機でのWCN取得率は、8時間合計値で方向1が83.6%、方向2が81.7%となりました。
方向1では7つの時間帯でWCN取得率が80%以上となり、方向2では6つの時間帯でWCN取得率が80%以上となりました。
人手カウントとDSRC路側機それぞれの時間比率の差を比べると、方向1の9時台が-1.4%と最も差が大きくなりましたが、それ以外では差が±0.5%以内に収まる結果となりました。
まとめとDSRCの今後について
本調査の検証結果では人手カウントと比べ、約80%の車両のWCNを読み取ることができました。
これは当初立てた仮説に近い結果であり、今回の検証結果はDSRCの精度を示す上で非常に重要なデータになると考えられます。
今回得られたデータやDSRCの知識、実際に交通量調査にDSRCを利用した経験をスタートラインと捉え、交通分野における調査手法の一つとしてDSRCをご提案できるように今後もさらなる検証や活用法の検討に取り組んでいきたいと思います。
さいごに
今回の自主調査結果の詳細を知りたいという方は、当社のホームページ上で公開されている資料をぜひご覧ください。
「DSRCを用いた車両カウント調査の精度検証」
資料では今回同時に実施した画像解析技術による計測との比較結果やDSRC路側機を複数箇所に設置し実施した2地点間のデータマッチング結果についてもまとめています。
当社はただ調査をする会社ではなく、時代に対応した新たな調査手法を模索するために様々な試みを行っている会社です。
今回のような取り組みを皆様に少しでも知っていただければ幸いです。
この記事を書いた人
鬼島 浩介
主に交通に関する調査を担当しています。