”地球沸騰化”-2023年を気象データで振り返る

2024.06.20

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政策のおはなし

ライターの木村です。久々に気候変動について書きます。

「地球沸騰化」時代の到来?

夏が近づいてきました。暑さを実感しやすい季節です。
昨年の夏は暑かったと記憶に残っている人も少なくないと思います。
思い起こせば2023年7月27日、国連事務総長のグテーレス氏が「地球沸騰化の時代が到来した」と発言し、「暑さ」が話題になりました。
2024年1月12日には世界気象機関(WMO)が、2023年の世界の平均気温が観測史上最高を更新したと発表し、またまた「暑さ」が話題になりました(WMO、2024/1/12)。
日本も例外ではなく、暑い一年でした。2023年の日本は実際にどの程度暑かったのでしょうか? 気象観測データをもとに2023年の「暑さ」を振り返ってみます。

下の表1は、国内の主な観測地点(47地点)における毎月の日平均気温を示したものです。
2023年と50年前頃(約50年前を中心に前後30年間の平均気温:1961年~1990年の平均値)の気温を並べて示しています。
比較を容易にするために整数化してざっくりと示しています。

なお、2023年と平年ではなく、2023年と50年前を比較するのにはワケがあります。
平年値は30年間の平均値で10年ごとに更新されており、現在の平年値は1991年から2020年までの平均値です。
これは既に高温化が顕著になっている期間の平均値にあたります。
2023年の気温で長期的な気候変動の一端をとらえることも念頭におき、その前の時期と比べることにしました(※厳密には50年前頃の平年気温の近似値との比較ですが、ややこしいので以降では年々変動を無視し50年前の気温との比較としてみていきます)。

2023年はやはり暑かった!

「暑さ」といえば、やはり夏が気になります。そこでまず、表1で8月の気温を見ていきます。
2023年8月に目を向けると、日平均気温が30℃以上となった地点が16地点もありました(整数値ベース。以降も同様に整数値で見る)。
30℃以上の地点は南の地方だけではなく、北陸地方や東北地方でも見られます。
50年前に目を向けると30℃以上は47地点のどこにも見られませんでした。
2023年8月の暑さは50年前とは全く異なる水準であることがわかります。

2023年8月の日平均気温の最低値は札幌の27℃でした。
27℃は50年前だと東京や西日本の多くの観測地点の気温と同じ水準です。
同様に2023年8月の青森や盛岡の28℃は、50年前だと近畿地方や九州地方の多くの観測地点の気温と同じ水準です。
秋田等の30℃は前述の通り、50年前だと47地点のどこにもありません。
2023年の北日本の8月の気温は、50年前の西日本と同じ、あるいはそれ以上の高温だったことがわかります。

次に1月から12月まで年間全体の気温の状況を見ていきます。
表1では気温を5℃単位で色分けしてあります。
気温が高いほど濃いピンク、気温が低いほど濃い青で示してあります(表の注記参照)。
2023年を50年前と比べると、大半の地点で、濃いめのピンク(25℃以上)の期間が長くなり、他方で青色(10℃未満)の期間が短くなっています。
全国的に2023年は50年前に比べて気温の高い時期(→夏)が長く、気温の低い時期(→冬)が短くなっていることもわかります。

表1 2023年と50年前頃の気温(日平均気温の月平均値℃)

「四季」から「二季」へ:春・秋の高温化

2023年は夏が長く、冬が短かったことがわかりましたが、春や秋はどうだったのでしょうか? 
実は春や秋が短くなっているという指摘は以前からあり、最近では「四季」に替わる「二季」という言葉まで登場しています。
辞書をみると、「二季」とは、「一年を四季に分けたうちの二つの季節。春と秋、また、夏と冬など。」(精選版日本国語大辞典)と説明されていますが、最近登場した「二季」は、この辞書の説明とはニュアンスが異なります。
四季を構成する春と秋がなくなって、夏と冬だけになることを意味しています(朝日新聞デジタル、2023年12月19日・2024年1月11日)。
春と秋の高温化が原因であり、夏の長期化と重なっていくものです。
改めて表1をみると、多くの地点で2023年の9月の気温が50年前の8月と概ね同じ水準になっているのがわかります。
秋の高温化による夏の長期化の一端が現れたものとも理解できます。

ついでですが、表2に2023年と50年前の気温差(数値については表の注釈参照)を示しました。
2023年は3月と9月の高温化が顕著であり、この表からも二季に向かう気候変動の様子がうかがえます。特に北日本が顕著ですね。

表2 2023年と50年前頃との気温差(日平均気温の月平均値℃)

1.5℃目標

2015年に採択されたパリ協定には、「世界的な平均気温上昇を産業革命以前に比べて2℃より十分低く保つとともに、1.5℃に抑える努力を追求すること」が盛り込まれています。
しかし、WMOによると、2023年時点で既に1.45℃上昇しており、2024年はもっと暑くなる可能性があるとのことです(WMO、2024/1/12)。
さらには、今後5年以内に80%の確率で一時的に1.5度を上回るとの見通しも発表されています(WMO、2024/6/5)。

気候変動に関する政府間パネル(IPCC)では、世界の平均気温が1.5℃上昇すると50年に一度の高温(※1)が8.6倍、2℃上昇すると13.9倍になると評価しています(IPCC WGⅠ、2021)。
表2で日本国内(陸域)の状況をみると、2023年に限れば、わずか50年前と比べても大半の地点で1.5℃あるいは2℃に収まっていないのは明らかです。
たとえ世界の平均気温が1.5℃上昇にとどまったとしても、日本国内の陸域では、それ以上になりえることがわかります。
前掲のWMOの発表も踏まえると、このままでは2023年に日本国内で経験したような高温は当たり前のこととなっていくと思われます。
2023年の高温を振り返ると、気候変動対策(緩和策・適応策)の加速の重要性が改めて認識されます。

※1 産業革命前の陸域での50年に一度の高温

参照・参考資料、データ

・The World Meteorological Organization,2024/1/12,PRESS RELEASE“WMO confirms that 2023 smashes global temperature record”

・気象庁、過去の気象データ検索(観測開始からの毎月の値)

・精選版日本国語大辞典

・朝日新聞デジタル,2023年12月19日,「春と秋が消え「二季」になると 猛暑・豪雪…異常高温化の未来には」

・朝日新聞デジタル、2024年1月11日、「「二季化」進むと キャンベルさんが危惧する日本人の美意識の薄れ」

・環境省「パリ協定の概要(仮訳)」

・The World Meteorological Organization,2024/6/5,PRESS RELEASE“Global temperature is likely to exceed 1.5°C above pre-industrial level temporarily in next 5 years”

・IPCC WGⅠ,2021,Summary for Policymakers,Climate Change 2021: The Physical Science Basis

この記事を書いた人

木村 浩巳

サーベイリサーチセンター主任研究員、法政大学地域研究センター客員研究員、武蔵野大学非常勤講師を兼務。専門社会調査士。 2009 年度より環境研究総合推進費E-0906(2)「日本の自治体における低炭素社会構築及び地球環境問題への取り組み促進施策に関する研究」,2010 年度より環境研究総合推進費S-8(2)「自治体レベルでの影響評価と総合的適応政策に関する研究」,2015 年度より文部科学省SI-CAT「気候変動技術社会実装プログラム」に参加。著書に『気候変動に適応する社会』(共著,技報堂出版)、『地域からはじまる低炭素・エネルギー政策の実践』(共著,ぎょうせい)など。

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