介護保険料は、こうして決まる! 保険料算出方法のお話
こんにちは、ライターの山村です。
前回は、介護保険制度の概要と、介護にはお金がかかっているという現状をお伝えしました。
今回は、介護保険財政の一翼を担っている「保険料」のお話です。
基礎的な内容ですので、すでにご存じの方にはあまり参考にならないかもしれません。でも、保険料のことをあなた以外のだれかに説明するときには、役に立つかもしれませんね!
なお、この記事で触れる介護保険とは、公的介護保険を指しますのでご注意ください。(民間の介護保険もありますが、今回は触れません。)
保険者と被保険者とは?
まずは、保険者と被保険者とは何かを説明しましょう。
大雑把にいうと、保険者とは保険料を徴収して保険金を支払う者、被保険者とは保険料を納めて必要な時に保険金を受け取る者のことです。
介護保険制度では、お住まいの市町村及び特別区(以下「市町村」といいます)が保険者、40歳以上の方が被保険者となります。
被保険者には2種類あり、65歳以上の方を「第1号被保険者」、40歳から64歳の方を「第2号被保険者」といいます。第1号被保険者は市町村が定めた保険料を納め、第2号被保険者は医療保険の保険料に介護保険料を上乗せして納めます。
保険料額は、3年ごとに市町村が決める!
第1号被保険者の保険料は、3年ごとに市町村が策定する『市町村介護保険事業計画』の策定過程で算定され、条例で決定されます。(ちなみに弊社は、全国の様々な自治体で『介護保険事業計画』の策定を支援しています。)
保険料試算の基本的な方法は国が示し、全国の市町村が同様の手法で試算しているのですが、実際の保険料額には市町村によって驚くほどバラつきがあります。平成27年から平成29年までの3年間(この期間を第6期といいます)の保険料の最高額は8,686円、最低額は2,800円で、実にその差は5,886円もあります。
ちなみに、全国平均額は5,514円です。あなたのまちの保険料額は平均よりも高いですか、それとも低いですか?
保険料についての詳しい情報は、厚生労働省のホームページで確認することができます。
第6期計画期間・平成37年度等における介護保険の第1号保険料及びサービス見込み量等について
保険料額の算出方法は?
市町村が3年ごとに定める保険料額は、どのように算出されているのでしょうか。
保険料の算出方法については、国から何らかの指示がありますが、基本的な手順は概ね下図のような流れです。
少し説明しましょう。
まず、「①将来人口を推計」します。『介護保険事業計画』の期間は3年と決められていますので、最低でも3年先までの人口を推計します。
次に、推計人口の被保険者層から、要介護認定を受けることが見込まれる人数を推計します。これが、図中の「②認定者数の推計」です。
推計された認定者数は、介護保険サービスを利用する可能性がある人数です。次は、このうち、どのようなサービスをどれだけの人が利用することが見込まれるのかを推計します。
まずは、「③施設サービス利用者数」、「④居住系サービス利用者数」を見込みます。居住系サービスとは、図中に記載した、特定施設入居者生活介護(有料老人ホーム等への入居者)、認知症対応型共同生活介護(グループホーム)などを指します。施設サービスも居住系サービスも、自宅以外の場所で生活しながら利用するサービスであり、基本的にはその他のサービス利用と重複しないので、最初にこの部分を見込む手順で試算するしくみになっています。(厳密には、施設を出所して自宅にもどった月等にはサービスの重複利用が発生しますが、この手順ではそこまでは見込みません。)
次に、「⑤在宅サービス利用量」を推計します。ここでいう在宅サービスとは、居住系サービスにあげたものを除く居宅介護(介護予防)サービス及び地域密着型サービスのことです。在宅サービスは、種類がたくさんありますので、サービスの種類ごとの利用人数や利用回数等を細かく見込みます。
このような考え方で、サービス利用に要する費用(⑥総給付費)を見込みます。そこに、⑦高額介護サービス費等に要する費用、⑧地域支援事業に要する費用等を加算した額が、介護保険事業の運営に必要な額です。その22%相当額が「⑨第1号被保険者負担分相当額」となりますので、これが保険料試算の根拠となります。
この先の計算にも、まだまだいくつかの要因が関わってきます。
前回の記事で紹介した介護保険財源の構成のうち、調整交付金の交付割合がどのくらいになるのか、財政安定化基金への拠出金や償還金、準備基金取崩額、保険料の収納率(保険料が予定通り支払われる割合)などがどの程度になるか等を見込んで保険料額が算出されます。
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介護保険料は、みな同じではない!?
最後に、保険料額の見方を説明します。
仮に、あなたのまちの保険料額が5,000円だとしても、あなたが実際に支払う保険料額は違うかもしれません。
表をご覧ください。保険料額が5,000円であるのは、第5段階に該当する方のみです。
実際に支払う保険料額は、市町村が定めた保険料基準月額に、被保険者の前年の所得水準に応じた負担割合をかけた額となります。したがって、下表の例では、第1段階に該当する低所得の方は1,500円(基準額-3,500円)、第9段階に該当する高所得の方は8,500円(基準額+3,500円)を負担することになります。
なお、この保険料段階は、自治体の判断で変更できるようになっています。こうした情報は、市町村の『介護保険事業計画』に記載されていますので、一度確認してみてはいかがでしょうか。
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まとめ
今回は、介護保険料についてお話しました。しかし、ここには書ききれない情報がまだまだたくさんあります。
実は、市町村は、このような政策情報を様々な形で発信しています。介護保険事業計画やその概要版は市町村のホームページに掲載されていることがほとんどですし、多くの自治体計画は決定前に“パブリックコメント※”という形で公表されています。パブリックコメントの場合は、計画の内容に対して意見を言うこともできます。
市町村が発信する情報は、皆さんの生活に直結するものが多いですから、ぜひ関心を持って情報を目にしていただければと思います。
※パブリックコメントとは、国や市町村が政策や規則などを制定するときに、広く住民に意見を聴取し、その結果を反映させることによって、よりよい行政を目指すことをいいます。パブリックコメントの公表は、ホームページへの掲載、広報や役所の情報コーナーでの閲覧などの方法で行われています。
この記事を書いた人
山村 靖彦名古屋事務所
コラバド副編集長。専門は社会福祉。 主に、自治体の福祉関係調査や計画策定を支援している。 社会福祉士、専門社会調査士の資格を有する。