調査対象者によりそう「フィールドリサーチ」の可能性とは?

2017.05.25

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こんにちは、ライターの山村です。
今日は、当社が実施している社会調査のお話です。

みなさんは、フィールドリサーチという言葉をご存知でしょうか?

Googleで検索してみると、現場の性格により少しニュアンスの異なる捉え方がされているようです。

たとえば、事業構想のサイクルにおいては、

“構想と現実空間との接点を作りだすもの”
“自らの構想案が現場でどのように受け止められるかを検証する手順”
出展元Web-page

研究現場においては、

“自然な状況において行う調査・研究、場の参加者からの視点で行う研究”
出展元Web-page

でも、これらに共通しているのは、“情報は現場にある”ということではないでしょうか。

“現場だからこそ得られる情報がある!” それがフィールドリサーチの神髄だと考えています。

当社が考える「フィールドリサーチ」の意義とは?

実は、当社には、フィールドリサーチを大切にしていこうという考え方があります。

それを象徴する話として、当社の『社史』に、次のような記述があります。

当社が長年実施してきた、災害に関する自主調査でのエピソードを、創業社長である藤澤士朗が語っている場面です。

阪神・淡路大震災のときの面接調査では、対象者から忘れられない一言を聞くこともできました。上空を報道機関のヘリコプターが何機も飛び回っていて、その騒音のために、崩壊した瓦礫の下敷きになっている被災者の「助けて!」の声が聞こえなかったというのです。
(中略)
これを教訓に、以来、報道各社は共同取材の協定を結び、出動させるヘリコプターの数を最小限に抑えるようになりました。調査の基本である面接調査をしてこその貴重な声でした。(『サーベイリサーチセンター40年史』より)

これは、震災発生直後の現地の皆さんの現状を伝えようとして、当社が実施した自主調査の現場での1コマです。 

近年では、Web調査のように、対象者と接することなく回答を得られる調査方法が数多くあります。 

もちろん、そうした手法にもたくさんのメリットがありますが、調査対象者に対面しなければ得られない情報があることも事実ですね。 

当社の自主調査のエピソードは、現場でしか得られない情報が、報道機関各社の行動を変容させたという事例です。

このストーリーは、フィールドリサーチを重視する当社の考え方を象徴するものです。

声なき声を聴くことの大切さを学ぶ!


また、別のエピソードを1つ。 

当社には、新入社員研修の一環として、新入社員自身が調査員となり調査の現場を経験するというプログラムがあります。 

以下は、三宅島噴火災害(全島避難)からの帰島民への調査を行ったある新入社員(当時)の研修レポートです。

(調査のために島に向かう)船の中で私は憂鬱だった。本当に島民の協力を得られるのだろうかと懸念していたのである。

(中略)だが、振り返って最も鮮烈に記憶しているのは、調査に協力いただけなかった対象者の方だ。

(中略)「調査に協力するのはかまわない。でも、それを世間に公表したらどうなる?『どのような支援が必要ですか?』と聞くけれど、(中略)正直に答えたら『三宅島の連中は贅沢だ』と言うだろう。(中略)嘘を吐くぐらいなら最初から答えない方がいい。」

そのとき私は、調査前の懸念が不適切であったことに気付いた。調査で重要なのは、協力が得られるか否かではない。本当の意識調査とは、協力を得られない人の声にも耳を傾けることなのである。(中略)無機質な数字の裏に、いくつもの複雑な「想い」が存在することを、少なくとも私はこの先忘れることはない。(『社会調査でみる災害復興(帰島後4年間の調査が語る三宅帰島民の現実(株式会社弘文堂)』より)

このように、“声なき声を聴く”ことができるのも、現場で対象者と接しているからこそです。 

これも、フィールドリサーチを重視する当社の、大切なストーリーの1つです。

調査対象者によりそう“傾聴面接調査法”

被災者を対象とする面接調査では、対象者の心理的負担の大きさに“よりそう”必要性を感じることが多くありました。 

わかりやすく言うと“話を聞く”ということです。 

本来、面接調査という手法では、調査員個人の恣意的な影響を避けるため、調査票に沿って画一的に質問するのが基本です。しかし、これでは、対象者に“よりそう”ことに限界がありました。 

この課題に向き合う契機となったのが、東日本大震災発生から約1か月後に当社が行った自主調査です。 

この調査で当社は初めて、構造的な面接調査に“傾聴”を取り入れた独自の質問手法に取り組みました。後に“傾聴面接調査法“と呼ぶこととなったこの質問手法の特徴は、以下の2点です。

①対象者ご本人の話の流れによりそいながら、必要な情報を聞き取り調査票に記載する
②調査に直接関係ないお話もすべて聞き、記録する

容易に想像できるとおり、このやり方にはとても時間がかかります。

効率を重視する考え方からは、決して生まれてきません。

たしかに、「調査」という行為は情報を得るためのものですが、“話を聞いてほしい”という調査対象者のニーズを無視することはできません。フィールドリサーチを大切にするという考え方があったからこそ、実践できた調査手法です。

傾聴面接調査の結果、現場の皆さまの“生の声”をたくさん集めることができました。ここには、従来の手法では得られなかった情報がたくさん含まれています。この、膨大なデータの分析にはもう少し時間がかかりますが、そこからさらに新しい知見が生まれる可能性は否定できません。

調査対象者との信頼関係を大切にしたフィールドリサーチが、調査データの可能性をさらに膨らませることにつながったのではないかと感じています。人が介在してこそのフィールドリサーチの可能性を感じていただけたら幸いです。

※当社の自主調査結果は、当社Web-siteをご参照ください。

 

この記事を書いた人

山村 靖彦名古屋事務所

コラバド副編集長。専門は社会福祉。 主に、自治体の福祉関係調査や計画策定を支援している。 社会福祉士、専門社会調査士の資格を有する。

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