「これまでに経験したことがないような大雨」と避難(前編)

2019.12.11

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政策のおはなし

ライターの木村です。
今年は気象災害が相次ぎました。
気象災害と避難行動について考えてみました。前編・後編の2編に分けてお届けします。

2019年、相次いだ台風による被害

2019年10月12日、伊豆半島に上陸した台風19号で多くの人命が奪われ、甚大な被害がもたらされました。
その直前には台風15号により、また、その直後には台風21号に伴う記録的大雨で尊い人命が失われました。
亡くなられた方のご冥福をお祈りします。

近年、このような気象災害が毎年起きています。
2018年7月の「平成30年7月豪雨」(西日本豪雨等)や、2017年7月の「九州北部豪雨」による被害も記憶に新しいところです。
このような豪雨の際には、「これまでに経験したことのないような大雨」というような表現で警戒が呼びかけられるようになりました。
この表現は、大雨特別警報が発表されたときなどに使われる表現です。
今年は台風19号の時に大雨特別警報が相次ぎ、この表現を何度も耳にすることとなりました。

予測された将来の気候が既に到来?

災害を引き起こすような大雨が増えていく状況は、以前から予測されていました。
今から11年前の2008年に環境省が出した「STOP THE 温暖化2008」には次のような記述があります。

「21世紀末(2071~2100年平均)には、夏季の降水量が現在(1971~2000年平均)より20%増加し、夏季の日降水量が100mmを超える豪雨日数も、温暖化の進行とともに増加すると予測されています」。

グラフはその様子を表しています。

日本の夏季(6・7・8月)の豪雨日数の変化
(出典:環境省「STOP THE 温暖化2008」)

この予測は気候変動影響の深刻さや脅威を示しています。
みなさんはこの予測の文章やグラフから、その深刻さや脅威を実感できるでしょうか?
私は正直に言ってあまり実感できません。
それは、100mmを超える豪雨が今後増えるといっても、そのような豪雨がどのような状況を引き起こすのか直感的にイメージしにくいからです。
1日に100mm(=10cm)の雨だと大したことがないとさえ思えてきます。
しかし、少し冷静に考えるとどうでしょう。
降った雨は低いところに流れていきます。
地形によっては流れてきた水がどんどん溜まっていきます。
四方から水が流れてくれば水位が短時間で高まる可能性があることも理解できます。
また、雨で地盤が崩れ、土砂が押し寄せてくるところもあるでしょう。
近年は単位時間当たりの降水量が極めて多い豪雨も多く発生しています。
台風19号の時には神奈川県箱根町では1日あたりの降水量が922.5mmに達し、国内の最高記録を更新しました。
私はそのような場に居合わせたことはありませんが、報道やSNS等でその光景を目にしているので、自分がその場にいたら危険だということは認識できます。

この危険性の認識は“実感”によるというよりも“理解”によるという感じですが、気候変動下ではこれまでに経験したことのないようなことが起こってくると見込まれるので、類似の経験や映像記憶等と予測情報とを関連付けて理解していくしかないのだと思います。
みなさんも、近年の豪雨等による災害の光景を思い起こして、予測の文章やグラフを見ると深刻さや脅威の受け止め方が異なってくるのではないでしょうか。

予測は、最新の知見を反映して更新されています。
気象庁が2017年に出した地球温暖化予測情報第9巻では、防災等に資するため、気候変動影響が最も大きく現れる場合の予測情報を提供しています。
地域によって異なりますが、現在(1980年~1999年)に比べて21世紀末(2076年~2095年)には、1日に100mmを超す豪雨の発生回数が、少ない地域でも2年に1回程度、多い地域では1年に1回以上増えると予測されています。
これも大きな変化だとは実感しにくい情報です。
しかし、2019年は、時間軸上でこの予測の「現在」(1980年~1999年)に近い位置にあるにも関わらず、「これまでに経験したことのないような大雨」が既に毎年のように災害を引き起こしています。
一度災害が発生すると、その後は生活も経済も大変です。
一年に何度かそのような可能性があるとすれば、災害から復旧していない時点で次の災害リスクに直面するということもありえます。
実際に2019年には、千葉県で台風15号・19号及び、台風21号の影響に伴う大雨により、被害が相次ぎました。
それを思い起こせば、今後の大雨の脅威をより深刻に受け止められるのではないでしょうか。

【大雨・短時間大雨の回数の変化】
(出典:気象庁「地球温暖化予測情報第9巻」)

 

長くなりましたので、今回はこのあたりで。
次回記事(これまでに経験したことがないような大雨」と避難(後編))では、人的被害をなくすにはどうしたらいいのか等について考えてみたいと思います。

(参考文献)
環境省、2008、STOP THE 温暖化 2008
気象庁、2017、気候変動予測情報9巻
内閣府(防災担当)、2019、避難勧告等に関するガイドラインの改定-警戒レベルの運用等について
内閣府(防災担当)、2019、避難勧告等に関するガイドライン①(避難行動・情報伝達編)
内閣府(防災担当)、2019、避難勧告等に関するガイドライン②(発令基準・防災体制編)
内閣府、過去5年の激甚災害の指定状況一覧

<関連記事>
「これまでに経験したことがないような大雨」と避難(後編)

この記事を書いた人

木村 浩巳

法政大学地域研究センター客員研究員、専門社会調査士。 2009 年度より環境研究総合推進費E-0906(2)「日本の自治体における低炭素社会構築及び地球環境問題への取り組み促進施策に関する研究」,2010 年度より環境研究総合推進費S-8(2)「自治体レベルでの影響評価と総合的適応政策に関する研究」,2015 年度より文部科学省SI-CAT「気候変動技術社会実装プログラム」に参加。著書に『気候変動に適応する社会』(共著,技報堂出版)、『地域からはじまる低炭素・エネルギー政策の実践』(共著,ぎょうせい)など。

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