「子ども・子育て支援事業計画」を知ろう②(政策編)

2019.12.17

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福祉のおはなし

こんにちは、ライターの山村です。
市町村子ども・子育て支援事業計画について、前回の続きです。
前回は、「制度編」として、法律における位置づけ、計画への記載事項(基本的記載事項、任意記載事項)をご紹介しました。(前回記事はこちら!

以下、前回ご紹介いたしました基本的記載事項と任意記載事項を再掲します。

<計画に記載する事項(基本的記載事項)>
①教育・保育提供区域の設定
②各年度における教育・保育の量の見込み
③教育・保育の提供体制の確保の内容及びその実施時期
④地域子ども・子育て支援事業の量の見込み
⑤地域子ども・子育て支援事業の提供体制の確保の内容及びその実施時期
⑥教育・保育の一体的な提供に関すること
⑦施設等利用給付の円滑な実施に関すること

<計画に記載する事項(任意記載事項)>
①産後の休業・育児休業後における教育・保育施設等の円滑な利用の確保
②専門的な知識及び技術を要する支援に関する都道府県事業との連携
 ・児童虐待防止対策の充実
 ・母子家庭及び父子家庭の自立支援の推進
 ・障害児施策の充実
③職業生活と家庭生活との両立に必要な雇用環境の整備に関する施策

今回は、これらを踏まえて、市町村ではどのような政策が考えられるのかを見ていきましょう。

任意記載事項から、考えられることは?

子ども・子育て支援法や基本指針が示すとおり、市町村子ども・子育て支事業計画に記載する事項は「基本的記載事項」のみでOKです。

しかし、子どもの最善の利益を守り、子どもの生存と発達を保障できる計画として策定するのであれば、「任意記載事項」を踏まえていく必要があります。

1つずつ見ていきましょう。

①産後の休業・育児休業後における教育・保育施設等の円滑な利用の確保

これは、保護者が、産前・産後休業や育児休業明けに希望に応じて教育・保育事業を利用できる環境を整えるということです。
保護者から見て、育児休業と教育・保育事業が切れ目なく円滑に利用できる社会環境が必要ということですね。

②専門的な知識及び技術を要する支援に関する都道府県事業との連携

ここには、「児童虐待防止対策の充実」、「母子家庭及び父子家庭の自立支援の推進」、「障害児施策の充実」が盛り込まれています。
1つずつ見ていきましょう。

児童虐待防止対策の充実
近年、児童虐待に関する不幸な事件の報道は後を絶ちません。
しかしそれらは、顕在化した一部の事象である可能性も否定できないのです。
潜在化したまま、今なお虐待にさらされている子どもがいることを思うと、心が痛まない人はいないのではないでしょうか。
言うまでもなく、虐待は子どもの発達を阻害します。
つまり、虐待の予防は、「子どもの最善の利益」を守るための重要な行政課題といえます。
そのため、児童虐待防止法第6条では、“児童虐待を受けたと思われる児童”を発見した者は通告しなければならないと規定しています。

また、国は「児童相談所強化プラン」を策定し、児童福祉司などの専門職の配置の充実や資質の向上など、児童相談所の体制と専門性について計画的に強化しています。
市町村施策としては、「要保護児童対策地域協議会」の機能強化通告義務など法や制度の周知啓発児童相談所等関係機関との連携強化などが考えられます。

しかしながら、これらの施策はすべて要保護児童の早期発見と保護に焦点化されています。
虐待が発生しないよう予防する施策は見えてきません。
また、要保護児童を受け入れる児童養護施設の養育環境の質の問題を指摘する専門家もいます。
要保護児童にならないための予防施策の充実も視野に入れながら、子どもの最善の利益としての児童虐待防止対策を検討していくことが大切です。

母子家庭及び父子家庭の自立支援の推進
ひとり親家庭への支援は、母子及び父子並びに寡婦福祉法に基づく国の基本方針、都道府県の自立促進計画などに基づき、子育て・生活支援、就業支援、養育費の確保、経済的支援の4つの柱を踏まえた総合的な自立支援の推進が基本です。
また、ひとり親家庭では、子どもの貧困に着目した支援が必要な場合も考えられます。

現在、日本では7人に1人の子どもが貧困状態にあるとされています。
これは、相対的貧困にある18歳未満の子どもの割合です。
相対的貧困とは、世帯の所得がその国の全世帯の所得の中間値の半分に満たない状態にあること、つまり、その国の一般的な水準での生活を営むことが困難な状態にあることを意味します。

低所得世帯では、保護者のワーク・ライフ・バランスがどうしても仕事中心になり、子どもと過ごす時間が減少することが心配されます。
そのためかどうかは不明ですが、アンケート調査を行うと、教育や生活習慣の体得などにおいて、貧困ではない家庭の子どもとの間に差がみられる場合があります。
そうした現状がある場合には、子どもの最善の利益を守る視点からも、子どもの貧困対策の充実を検討することが必要と考えられます。
また、子どもの貧困は、子どもにとっての様々な機会損失であり、子どもの発達を阻害する要因でもありますから、無視できない行政課題といえます。
市町村施策としては、学習支援、生活支援、保護者の就労支援、経済的支援などが基本となります。

障害児施策の充実
障害児施策は、市町村の障害者計画、障害児福祉計画等にも位置付けられていますが、この計画では、すべての障害児が適切な支援を受けて健全に発達できるよう支援することを重視する必要があります。
また、自閉スペクトラム症、注意欠如多動症、発達性協調運動症、吃音症、チック症、限局性学習症などの発達障害については、状態に応じて本人の可能性を最大限に伸ばすことができるよう支援する必要性が指摘されています。
発達障害がある子どもへの早期からの適切な支援は、生涯の自立度を高めるとされています。しかしながら、早期における発達障害の発見や適切な診断、子どもの成長にあわせた継続的な支援体制の確保など多くの課題があり、総合的な施策の検討が必要です。
また、改定された基本指針(令和2年4月1日施行)には、医療的ケア児への支援の充実の必要性も記載されています。

③職業生活と家庭生活との両立に必要な雇用環境の整備に関する施策

こちらは、保護者のワーク・ライフ・バランスに関することです。
仕事と生活の調和の実現については、「仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)憲章」及び「仕事と生活の調和推進のための行動指針」において積極的に取り組む必要があるとされています。
市町村では、地域の実情に応じて、広報・啓発、企業の取組の好事例の情報収集と発信、積極的に取り組む企業の認定や表彰などの施策が考えられます。

以上の視点を踏まえて、任意記載事項に対応した施策を検討していく必要があります。
では、これらを実際の計画書に展開した場合、どのような形になるのでしょうか。

その点については次回記事(「子ども・子育て支援事業計画」を知ろう③(計画編))でご紹介したいと思います。

<参考資料>
児童相談所強化プラン(厚生労働省雇用均等・児童家庭局総務課 平成28年4月)
ひとり親家庭等の支援について(厚生労働省子ども家庭局家庭福祉課 平成30年4月)
教育・保育及び地域子ども・子育て支援事業の提供体制の整備並びに子ども・子育て支援給付並びに地域子ども・子育て支援事業及び仕事・子育て両立支援事業の円滑な実施を確保するための基本的な指針(内閣府)

<関連記事>
「子ども・子育て支援事業計画」を知ろう①(制度編)
「子ども・子育て支援事業計画」を知ろう③(計画編)

この記事を書いた人

山村 靖彦

コラバド編集者。専門は社会福祉(社会福祉士)。 数多くの行政計画策定を支援してきた経験から、いろいろな提案をしていきたいと考えています。

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